00-1234-5678

お電話で 弁護士岡本宛 とお申し付けください

翔栄法律事務所

受付時間:平日 9:30 ~ 18:30

東京都台東区東上野三丁目36-1 上野第二ビル201

完全予約制

ご希望の場合可能な限り対応いたします

時間外・当日・土日祝日のご相談

受付時間以外の連絡先はこちらのページ

コラム

お仕事で車を使う方必見:免許の停止・取消し処分の流れと争い方を弁護士が解説(後編)

交通違反を起こした場合、罰金とともに気になる処分が免許の違反点加算、そして免許の停止・取消し(免停・免取)です。
とくにお仕事で長距離・長時間の運転をされる方は、それだけ交通違反を犯してしまうリスクが高くなる一方、処分を受けてしまった場合のお仕事への影響は計り知れません。

このようにお仕事で自動車の運転をされている方や運送会社のように従業員に運転を命じている方とお話をしていると、免許の停止・取消し処分の仕組みや処分を軽減・猶予できる場合があることについてご存じでない方がいらっしゃることがあります。

前編では免許停止・取消処分の流れと争う場合のポイントを説明しましたが、後編では具体的な争い方についてご説明します。

 

このコラムは特に以下のような方におすすめ
  • 現場移動や営業などで長時間・長距離の運転をよく行う個人事業主・営業外交員の方
  • 複数のドライバー従業員を雇用する自動車運送業をされている方
  • ドライブレコーダーなどにより交通違反の不存在が明らかな証拠をお持ちの方
  • 急病人の搬送などやむにやまれぬ事由によって交通違反を犯してしまった方

 

1 処分を争う方法

⑴ 処分決定前に意見・証拠を提出する

意見聴取の手続が実施される場合

違反者(又は後述の弁護士等の補佐人)は、意見聴取手続の場で自らの意見を述べ、また意見を支える証拠を提出することができます。
そこで、前編のコラムで述べたようなポイントを念頭にした意見とこれを支える証拠を提出することが考えられます。

もっとも、実際の意見聴取手続は短時間で終わってしまうものであるうえ、当日中に処分が決定され通知されるのが通常であるため、意見や証拠を提出しても十分に検討してもらえない可能性があります。
そこで、意見聴取手続が開かれるより前に余裕をもって意見書と証拠を提出しておくことで、当日までに十分に内容を検討してもらうようにしたほうが良いと考えられます。

意見聴取の手続が実施されない場合

前編のコラムで説明したとおり、60日以下の免許停止の場合は意見聴取手続は実施されないまま処分が通知されることになります。
もっとも、処分の減軽や猶予が認められること、交通違反の認定に誤りがある場合に処分ができないことは60日以下の免許停止の場合も同様です。

そこで、意見聴取の手続きが実施されない場合、免許停止・通知の処分が決定される前に、意見や証拠を書面にして公安委員会宛に提出しておき、処分の際に考慮してもらうようにするとよいでしょう。

⑵ 処分決定に対して異議申立てを行う

処分決定がされた後の手段としては、処分を行った公安委員会に対して異議申立てを行う手段(審査請求)と、裁判所に対して処分の取消などを求める行政訴訟を行う手段(抗告訴訟)の二通りが考えられます。

審査請求

審査請求は、処分を下した公安委員会自らが、異議申立てを受けてその処分をすべきか否かを審査し、請求を認めるか否かの裁決を下す手続です。
審査請求は、原則として処分があったことを知った日から3カ月以内、又は処分があった日から1年以内に提起する必要があります。

訴訟との違いは、処分が違法であるだけでなく、判断権者が処分は不当と認める場合にも、認容(処分の取消)を認めているという点です。
そのため、公安委員会に広範な裁量があると考えられる処分の軽減や猶予を求めたい場合、私見では、審査請求手続を通じて争った方が訴訟に比して功を奏しやすいのではないかと考えられます。

行政訴訟(抗告訴訟)

行政訴訟は、第三者(中立)とされる裁判所が、処分をいかにすべきか審理し、請求を認めるか否かの判決を下す手続です。
行政訴訟のうち、処分に違法事由があれば取消し(処分の効力喪失)が認められる取消訴訟の場合、原則として処分又は裁決があったことを知った日から6カ月以内、又は処分があった日から1年以内に提起しなければならず、これを経過すると効力喪失のハードルが上がる無効確認訴訟でしか争えなくなります。

2 よくある質問

⑴ 違反点をつけられること自体は争えないのか?

免許停止・取消しの予告が来てから、又は処分が実際に下されてから処分を争おうとした場合、争おうとする理由がずいぶん前の交通違反(違反点を付けられたこと)だとすると大変です。
その時点では、すでに記憶も薄れ、証拠が散り散りになったり、現場の状況が変わって検証が難しかったりするなどして、主張立証を尽くすことが困難になることが考えられます。
そのため、交通違反の有無に関しては、違反を言い渡されてすぐに争いたいところではあります。

しかし、行政事件訴訟法は行政訴訟を提起するには訴えの利益が必要と定めており、何も処分がない段階では訴えの利益なしとして訴えが却下されてしまい、争うことはできないのが通常とされています

ただし、免許停止や免許取消と言った処分でない場合であっても、交通違反によって不利益な内容の処分を言い渡された場合には訴えの利益は認められることがあります。
例えば、過去にはゴールド免許を持つ方が交通違反を理由に更新の際にゴールドでない免許(優良運転者の記載無い免許)を更新で交付されたことについて取消訴訟を提起して交通違反の有無を争った事例では、訴えの利益が認められました(最高裁平成21年2月27日判決)。

また、警察が自主的に交通違反摘発の誤りを認め、違反点を付けたことを撤回することは可能です(2022年7月に話題になった歩行者から道を譲られたドライバーの摘発と交通違反の撤回はこの事例の一つと考えられます)。
ここでの問題は、あくまで警察が自主的に動かなかった場合、その間違いを正す手段が違反者(とされる方)側に残されていないという点です。

⑵ 過去の違反の内容を忘れてしまった場合はどうすればよい?

免許停止・取消の処分は交通違反が積み重なってされることもありうるため、免許停止・取消の予告をされた時には処分理由となった過去の交通違反がどのようなものであったかよく覚えていないことも考えられます。

そのような場合には、運転記録証明書の発行を受けることが考えられます。
この証明書は、警察署や交番等に置かれている申請用紙に記入し、郵便局・ゆうちょ銀行又は自動車安全運転センター窓口で発行申請をすることができます。
ただし、郵便局・ゆうちょ銀行窓口での申請の場合は2週間程度の時間を要することがありえ、意見聴取の日程通知をk受領したタイミングや弁護士への相談直前に取り寄せると間に合わない可能性があります。
弁護士などに相談をされる場合、運転記録証明書は争うポイントを正確に検討するうえでは必須のものであるため、事前に取り寄せたうえで相談に行かれた方がよいでしょう。

3 弁護士に依頼するメリット

訴訟に関して弁護士を代理人として立てることができるのは知られていますが、処分手続でも補佐人として、弁護士に意見提出や審査の場への出頭を任せることができます(ただし、意見聴取手続は本人出頭の必要があり、同伴に限られます)。

意見(主張)や証拠の提出自体は違反者本人でも可能なことです。
しかし、法律や通達が書いている内容がどのように運用・解釈されているか、具体的にどのような事情があれば法律や通達に定められた条件があるといえるか、この有利な事情はどのような証拠があれば通りやすいか等は、裁判を中心に法律解釈と事実関係を争うことの多い弁護士に専門的な知見があると考えられます。

そのため、弁護士に依頼することはこのような専門的な知見をもって処分を争うことが期待できるという点でメリットがあります。

※本コラムは初投稿日時点の法律・運用等に基づいて作成していますのでご注意ください。

お仕事で車を使う方必見:免許の停止・取消し処分の流れと争い方を弁護士が解説(前編)

交通違反を起こした場合、罰金とともに気になる処分が免許の違反点加算、そして免許の停止・取消し(免停・免取)です。
とくにお仕事で長距離・長時間の運転をされる方は、それだけ交通違反を犯してしまうリスクが高くなる一方、処分を受けてしまった場合のお仕事への影響は計り知れません。

このようにお仕事で自動車の運転をされている方や運送会社のように従業員に運転を命じている方とお話をしていると、免許の停止・取消し処分の仕組みや処分を軽減・猶予できる場合があることについてご存じでない方がいらっしゃることがあります。

本コラムでは、前編と後編の二回に分けて、前編では免許の停止・取消し処分の流れと、どのような事情が処分を争う理由になるかを、後編ではどう言った手段でこちらに有利な事情を主張をすればよいか、弁護士らがどのようなサポートができるかを解説します。

 

このコラムは特に以下のような方におすすめ
  • 現場移動や営業などで長時間・長距離の運転をよく行う個人事業主・営業外交員の方
  • 複数のドライバー従業員を雇用する自動車運送業をされている方
  • ドライブレコーダーなどにより交通違反の不存在が明らかな証拠をお持ちの方
  • 急病人の搬送などやむにやまれぬ事由によって交通違反を犯してしまった方

 

1 違反行為後の処分を受けるまでの流れ

⑴ 違反点数の累積により問われる処分が決まる

交通違反を犯した場合、違反行為の内容に応じて点数に換算されます。
この点数が一定の点数に達した場合、免許の停止や取消しといった処分を行うための手続が開始されます。

免許の停止・取消しの条件となる点数は、違反者の前歴によっても左右され、前歴がない方よりも前歴がある方の方が少ない点数で処分を受けることになり、また前歴が2回以上の方は最も軽い場合でも免許停止の期間が長くなっていきます。

⑵ 問われる処分が免許取消し、長期の停止の場合

免許の効力に関わる処分は、処分の重さ軽さによって行われる手続が変わってきます。
まず、90日以上の免許の停止や免許の取消しの場合、違反者に出頭を求めて意見を聴取する手続を実施し、そのうえで処分を下します。
意見聴取手続を実施する場合、その 一週間前までに「意見の聴取通知書」と呼ばれるものが交付され、聴取日時・場所等が通知されます。(東京の場合、霞が関の警視庁庁舎や府中などで実施されています。)
意見の聴取手続では、同様に免許の停止・取消しの手続を受けている複数の違反者が集められ、順番に呼び出されて、審査官の面前で処分に対する意見を述べることができます。
もっとも、一人の違反者にかけられる意見聴取の時間は長くはなく、違反者の中には1分程度で手続が終了してしまう方もいます。

⑶ 問われる処分が短期の免許停止の場合

他方、これよりも軽い処分、すなわち30日、60日の免許の停止の場合、意見聴取の手続は実施されません。
違反者が処分は出頭を求められて、そのまま処分結果を通知されることになります。

2 どのような事情を主張すれば処分を争えるのか?

次に、どのような事情があって、これを主張すれば処分を争うことができるのかをご説明します。

⑴ 違反行為の不存在を主張する

交通違反があったからこそ違反点が加算されているため、交通違反の事実が存在しないものと認められる場合には、違反点を前提とした処分を下すことはできなくなります。
不存在を主張する違反原因は直近のものに限られず、検討されている処分の根拠となる違反点数に関する違反原因であればよいとされています。

ただし、警察(公安委員会)も違反行為があるものと判断し、その認定を前提に手続を進めており、場合によっては相当の客観証拠を保全していることもありえます。
仮に違反行為を争う場合、そのような警察の認定を覆すだけ証拠が必要になると考えられます。

⑵ 減軽事由を主張する

処分の根拠となる交通違反の存在が認められる場合に関して、警察庁は、通達により、以下のとおり判断者の裁量によって処分を軽減することができる事由を定めています(警察庁丁運発第128号参照)。

30日の軽減事由

以下の1から3のいずれにも該当すること

  1. その者が運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情がある
  2. 処分を軽減することがその者の運転者としての危険性の改善に効果があると認められる
  3. 次のうちのいずれかの事情がある
    交通事故の被害の程度又は不注意の程度のいずれか一方が軽微である場合
    違反行為等の動機が、災害、急患往診、傷病人搬送その他やむを得ない事情によるものである場合
    違反行為等が他からの強制によるものであるなどやむを得ない事情によるものである場合
    被害者の年齢、健康状態等に特別な事情があるとき等同一原因の他の事故に比べて被害結果を重大ならしめる他の事由が介在した場合である場合
    被害者が被処分者の家族又は親族である場合

    前各号に掲げる場合のほか、明らかに改善の可能性が期待できる場合

60日の軽減事由

以下の1から3のいずれにも該当すること

  1. 前歴のない者である
  2. 処分を軽減することが明らかにその者の危険性の改善に効果があると認められる場合
  3. 上記の30日の軽減事由3の各事情のうち2以上の事情に該当する

⑶ 猶予事由を主張する

上記の通達は、そのほか、処分の重さごとに、判断者が処分を猶予できる事由も定めています。
なお、猶予がされた場合、猶予後に違反行為をしたときは、処分を猶予した以前の違反点数も累積して処分を行われることになるため、処分がより重くなる可能性がある・一回の違反で処分を受ける可能性があるという点について、注意が必要です。

停止等の処分の基本量定の期間が30日に該当する場合

以下の1及び2のいずれにも該当すること

  1. 上記の「60日の軽減事由」3のいずれかの事情がある
  2. 処分を猶予することがその者の運転者としての危険性の改善に効果があると認められる

停止等の処分の基本量定の期間が60日に該当する場合

以下の1から3のいずれにも該当すること

  1. 前歴がない
  2. 上記の「60日の軽減事由」3のうち2以上の事情に該当する
  3. 処分を猶予することが明らかにその者の危険性の改善に効果があると認められる

⑷ 軽減事由・猶予事由の注意点

上記の軽減事由・猶予事由は、これが認められる場合であっても、必ず軽減・猶予がされるものではなく、判断者の裁量に委ねられています。
通達にも、処分の軽減は「無条件に処分軽減の対象とすることなく、違反行為等の内容及び被処分者の運転者としての危険性を慎重に検討した上で、社会的に相当と認められる範囲内で処分の軽減をする」、「慎重にその内容を検討するとともに、処分を軽減した事案を分類整理しておき、これらの先例を参考にしながら、公平な取扱いができるようにする」と定められ、60日の猶予についても「事案の内容を特に慎重に検討するとともに、30日間の処分軽減をする事案と比較して社会的に相当と認められる合理的、かつ、明確な特殊事情のあるものに限定する」よう定められています。

そのため、軽減事由や猶予事由が認められるとしても、軽減や猶予が実際に認められるまでには相当のハードルがあることには注意が必要です。

⑸ その他の特例

一度処分を下されると点数がリセットされる関係から、処分が遅れた場合、遅れなかった場合に比べて重い処分が下されることがあり得ます。
例)前歴なし・違反8点の違反者(30日間の免停相当)が、処分がされないまま、最後の違反の14か月後に無灯火(違反1点)を行った結果、違反9点(60日間の免停相当)に達してしまった場合
通達では、「処分を受ける者の責に帰すべき理由以外の理由により処分が遅れた場合で、その者が当該処分の理由となった違反行為等をした日以後違反行為等をしないで免許を受けていた期間(免許の効力が停止されていた期間を除く)が通算して1年を経過しているものであるときは、その実績等を考慮して処分量定を行うものとする。」としています。このほか、違反行為又は重大違反唆し等若しくは道路外致死傷の発生の順に処分を行うことができなかった場合などについても、その順序通りにされなかったことが違反者の攻めに帰すべきものでないときは、その点を考慮して処分が過重にならないよう処分するものとされています。

このように、上記通達には、違反者の攻めに帰すことができない事由での処分順序の前後等の事情で処分の軽重が変わらないよう均衡を図るよう特例がいくつか定められています。

3 終わりに

制度の仕組みが複雑であるため、前編では一般的な制度の仕組みである手続の流れや主張できる事情に限定してご説明をしました。

後編のコラムでは、免停・免取処分の手続内において、2で説明した有利な事情をどのようなタイミング・方法で主張すべきか、処分を受けた後や処分手続が開始される前に違反行為の存在を争えないのかを、弁護士等ができるサポートの方法を交えながらご説明します。

※本コラムは初投稿日時点の法律・運用等に基づいて作成していますのでご注意ください。

バイクメッセンジャーは労働者? 委託・請負も労働者になるケース/ならないケースを弁護士が解説

以前コラムでご説明したとおり、労働者であるか否かは、①指揮監督、②報酬の労働対価性の有無・程度をメイン要素として考慮し、これでは判断が難しい場合には③事業者性の有無や④専属性の有無などのサブ要素として考慮して判断するものとされています。

しかし、この判断基準は考慮要素が多岐にわたり、また業種によって労働者性を肯定するに足る指揮監督等の存在は変わるため、どのような内容であれば労働者性が肯定されるのか、されないのかがわかりにくいのも事実です。
そこで、本コラムでは、多くの人が気軽に始めやすい個人事業であるものの、委託元(元請)との力関係が生じやすい自転車やバイクのメッセンジャーについて労働者性が認められるケース・認められないケースを解説いたします。

このコラムは特に以下のような方におすすめ
  • バイク・自転車便事業者で、特定のメッセンジャーへの再委託・下請けを日常的に行っている方で
    ①他業者との契約を禁止している(又は時間などの拘束を厳しく事実上禁止されている)
    ②シフトを一方的に決めて、委託先・下請側が拒否できた事例がない
    ⇒委託・請負関係が雇用契約と認定されるリスクを確認できる

  • 下請・再委託でバイク便・自転車便を行っている方で
    ①いつも依頼を請けていた会社から契約を切られて困っている
    ②仕事中にけがをしており、労災補償を受けられないか確認したい
    ③元請・委託元から基本報酬以上の対応を求められたが、対価をもらえていない
    ⇒元請・委託元との関係を雇用契約であるとして、労基法の保護や労災補償を受けられないか考える材料になる

 

1 労働者性が認められる事例を示した厚労省の通達の発出

自転車やバイクメッセンジャーの労働者性について参考になるものとしては、厚労省労働基準局長が発出した通達(平成19年9月27日基発第0927004号)において示された判断です。

⑴ 通達の内容

この通達は、バイク便事業者との間で「運送請負契約」を締結して運送を行っていたバイシクル(自転車)・バイクメッセンジャーの労働者性について、東京労働局長が厚労省に照会を行って出されたものです。
同通達では、問題となった契約関係について、①から④の事情を以下の通り認定して、メッセンジャーが労働基準法9条の労働者に該当するものとし、その周知を図りました。

①指揮監督ありとした事情
・仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由は、契約上認められているが、実態をみると拒否している例はみられない
・配送業務について手引が定められ、採用後、この手引に基づき行われる座学研修と営業所長に帯同した実地研修を数日間受講
・採用後は、各営業所に配属され、日常、営業所長の指示の下、配送業務に従事している
・日々の配送業務では、出勤時、営業所長から交通安全、接遇マナー等についての諸注意を受けた後、各自の待機場所へ移動し、配送指示があるまで待機。その後、配車センターからの配送指示に従い荷を配送し、次の配送指示があるまで、配送を終えた場所で待機し、以後、業務終了時までこれを繰り返す
・日々の配送指示は、顧客から配送依頼のあった1件の配送品ごとに引取先、引取時刻、届出先及び配送時の注意事項等が指示されている
・バイシクルメッセンジャー等は、携帯電話の保持が義務付けられており、最初の配送指示があるまでの待機場所への到着時、配送指示メーノレ受信後の移動開始時、荷の引取時、配送終了時(配送後の待機開始時)、休憩開始時及び休憩終了時において、携帯メールで配車センターに報告することが求められている
・各営業所では、配送体制確保のため、営業所長が配送量を勘案し、各人の具体的な出勤日・勤務時間についても、本人の希望、配送量等を勘案し、各人ごとに決定
・出勤日には始業時刻までの営業所への出所と業務終了後の営業所への帰所が義務付けられており、欠勤等がある場合は営業所長への連絡が求められている
・バイシクルメッセンジャー等の日々の出勤時刻等の出勤状況は、出勤簿により管理されている
・配送業務については、1件当たりの配送処理時聞が定められている
・契約上、業務の再委託は禁止され、実際にも研修を受けて承認された者しか従事できないため、業務を他の配送員に委託するなど代替性は認められない

②報酬の労務対償性ありとした事情
・報酬は、完全歩合制を採用。月末締切の翌日日支払(口座振込)。
・歩合給は、月ごとの配送料金合計額の50%を基本歩合率とした上で計算されるが、平日にすべて出勤した場合、皆勤加算として基本歩合率に一定の歩合率が加算される一方、あらかじめ定められた出勤日に出勤しない場合には欠勤減算として、あらかじめ定められた出勤時刻に営業所に出所しない場合には遅刻減算として、それぞれ基本歩合率から一定の歩合率が減算

③事業者性に関する事実関係
・業務用無線(必要な場合に限る。)、配送員用バックは会社負担であるが、自転車や自動二輪車のほか、維持に要する燃料代・修理代・税金・車検代、携帯電話等については自己負担
・バイシクルメッセンジャー等の報酬の額は、日額に換算すると1万円から1万5千円程度
・独自の商号の使用は認められておらず、バイク便事業者の企業名が表示されている配送員用バックや荷箱の使用が義務付けられている

④専属性
・他社の業務に従事することは契約上制約されていないが、出勤日・勤務時聞があらかじめ指定され、その聞は拘束されていることから、兼業を行うことは困難

⑵ 通達の効力

法律の解釈は最終的には裁判所に委ねられています。
他方、通達は下級行政機関を拘束する法令解釈の基準とされるもので、裁判所の判断を拘束するものではなく、上記通達に関しても裁判所はそのとおりに判断する義務を負うものではありません。

もっとも、下級行政機関である労働局・労基署を拘束することから、労災等の諸場面で行われる処分はこの通達を前提に下されるものと考えられます。
そのため、事業主としては上記通達を踏まえて労働者と扱うべきか否か、仮に事業者として扱いたいのであればどのような働かせ方をすべきかを整備することが求められてきます。


2 バイクメッセンジャーに労働者性を否定した裁判例(通達発布後のケース)

⑴ 労働者性を否定する裁判例の出現

平成19年通達の事案で考慮された働き方は、バイク運送業者とメッセンジャーとの業務委託・請負関係としてはオーソドックスな内容とみられるところも多いと考えられますが、他方で同通達発付後にこの事案と多くの共通点を持ちながらメッセンジャーに労働者性を認めた裁判例も存在します。
その一つとして本コラムでご紹介するのが、東京高裁平成26年5月21日判決(労判1123号83頁)です。

⑵ 通達の事案との違い

本判決の事案の場合、地裁判例などもみると、上記通達の事案とは以下のような類似点・相違点がありました。

類似点

  • 配送業務手引きと研修により配送業務の手法を指導
  • 配送業務の再委託は禁止
  • 定められた稼働日には申告通り稼働することが想定されていた
  • 携帯電話の保持義務あり
  • 使用する自転車や着衣は、メッセンジャー負担
  • メッセンジャー用の就業規則の整備はなく、懲戒処分の先例もない

相違点

  • メッセンジャーの稼働日・稼働時間はメッセンジャー自らが自由に決定(通達のケースでは稼働日等を会社が決定)
  • メッセンジャーは個別の配送依頼を拒否することが可能(通達のケースでは個々の配送依頼について拒否事例がない)
  • 兼業は禁止されていない(通達のケースでは兼業は契約上禁止されていないが、事実上困難)

⑶ 判決の内容

以上の事情を考慮し、本高裁判決は以下の一審判決(東京地裁平成25年9月26日労判1123号83頁)における判断を維持して、労働者性を否定しました。

「以上によれば、本件業務委託契約書の規定内容は,被告の配送業務の請負に関する約定であると認められるところ,その使用従属性については,メッセンジャーが稼働日・稼働時間を自ら決定することができ,配送依頼を拒否することも妨げられておらず,その自由度は比較的高いこと,被告がメッセンジャーに対し,一定の指示をしていることは認められるが,これらは受託業務の性質によるところが大きく,使用従属関係を肯認する事情として積極的に評価すべきものがあるとはいえないこと,拘束性の程度も強いものとはいえないことを指摘することができ,これをたやすく肯認することはできない。そして,メッセンジャーの報酬の労務対償性についても,労働契約関係に特有なほどにこれがあると認めることは困難である。もとより,メッセンジャーの事業者性が高いとまで評価することができないことは上記説示のとおりであるが,さりとてメッセンジャーの事業者性がないともいえず,また,専属性があるともいえず,むしろ,上記のとおり稼働時間を含めてメッセンジャーが比較的自由にこれを決定し,労働力を処分できたと評価し得ることに照らせば,少なくとも本件契約②締結後の原告らメッセンジャーについて,労基法上の労働者に該当すると評価することは相当ではないというべきである」


なお、同判決は、労基法上の「労働者」(労災補償法上の「労働者」と同じともされています)と労組法上の「労働者」は異なることがありうることを前提に、原告が労組法上の労働者にあたることは認定しています。

⑷ 判決を踏まえた考え方

判決でも「受託業務の性質によるところが大きく、使用従属関係を是認する事情として積極的に評価すべきものであるとはいえない」と述べられているとおり、業務の性質上、請負や委託であっても一定の指揮監督が生じることはありえ、労働者性を認めるに足る指揮監督と言えるかは業務の性質によって水準が異なるものとされています。

他方、一般的に、稼働日・稼働時間の裁量や仕事の諾否の自由は指揮監督の有無、労働者性を判断するうえで重要な事情とされており、本件ではこれらの点が通達の事案と異なったことから、他の指揮監督を積極づける事情を考慮しても、労働者性が否定されるものと判断したように見受けられます。

そのため、どの日・どの時間に勤務するかは一次的にはメッセンジャー側に委ねられ、会社側の仕事を断る自由が保障されているようなケースでは、労働者性が否定される可能性が高くなると考えられます。
もっとも、この場合でも他の事情から労働者性が認められる可能性もありうるため、心配な方は弁護士に相談されることをお勧めします。

労働者性が認められることはないのか? 自己所有車で自動車運送業を営むドライバー(傭車運転手)の場合について弁護士が解説

新型コロナウイルスの流行により軽貨物を中心に運送業の需要が高まっているともお聞きします。
業務委託・請負で自動車運送をされている方には、自ら所有する自動車でお仕事をされている方も多いと思われます。
このような方々は、基本的に労働者と判断される余地がないように思われますが、このイメージは正しいのでしょうか。

先日のコラムでは、業務委託・請負という題名の契約を交わしても労働者と判断される場合が多々あることを前提に労働者と認定される場合のファクターを説明いたしましたが、本コラムでは、自己所有の自動車を使用して運送業を行うドライバーに労働者性が認められることはあるのかについて、最高裁判例等を紹介しながら解説をします。

このコラムは特に以下のような方におすすめ
  • 自社の運送・配送業務を専属的に受注する自動車運送業者を持つ会社の経営者・管理者の方
  • 受注した自動車運送業務について、外部の業者に再委託・下請家に出している運送業者の方
    委託先・下請先が「労働者」と認定され、予期していない負担を強いられるリスクを考える助けになります
  • 個人事業主として運送業務を受注しているが、受注先から締め付けが強いことに悩まれている方
    「労働者」として労基法、労災保険法の保護を受けられる可能性を考える助けになります

1 労働者性を否定した最高裁判決(横浜南労基署事件)

まず取り上げたいのが、会社との運送請負契約に基づいて、自ら所有するトラックで製品の運送を行っていた運転手の労働者性に関して、最高裁が労働者性を否定した横浜南労基署事件の存在です(最判平成8年11月28日集民180号857頁)。

⑴ 事案の概要

横浜南労基署事件の原告は、製紙会社から運送請負契約に基づいて製品の運送を行っていた運転手です。
裁判では労災保険給付の申請を認めるかに当たり、運転手である原告と行政との間で原告が労働者に該当するか否かが争われていました。
この事件の最高裁判決の前提となっている高裁判決の認定によれば、本件の契約内容や原告の働き方には以下のような特徴がありました。

  • 自ら所有するトラックを使用(ガソリン代、修理代、運送の際の高速道路料金、自動車保険料は自己負担)
  • 報酬は出来高払い制(トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表に基づいて決定)
  • 事実上、他の会社からの運送依頼を請けることが考えられない立場(「専属的な下請け業者と同様の地位」とも表現)
  • 業務についての指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻程度に限定(運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばない)

⑵ 労働者性を否定した理由

以上の事情を前提として、最高裁は、以下のとおり述べてトラック運転手である原告の労働者性を否定しました。

右事実関係の下においては、上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、旭紙業は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人が旭紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的に旭紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。

⑶ 判決の意味

横浜南労基署事件最高裁判決はあくまでその事件に認定された事情に基づいて判断された事例判断とされ、自己所有のトラック運転手(傭車運転手)の事案全般について労働者性を否定する意味を持つものとはされていません。
しかし、指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻・終業時刻は会社側により事実上決定されていたこと、運賃はトラック協会が定める運賃表によるものよりも15%低い額であったことなどの一般的に労働者性を認める方向に働く事情が存在したことを加味しても労働者性を否定したことに照らすと、傭車運転手に関して労働者性が認められることは極めて難しいとも考えられます。

2 横浜南労基署事件最高裁判決以降に労働者性を認めた裁判例の存在

もっとも、このような最高裁判決が出されて以降、傭車運転手に関して労働者性を認めたケースも存在します。
その一例が名古屋高裁平成26年5月29日判決です。

⑴ 横浜南労基署事件最高裁判決の事案との類似点

この事案では、運転に用いていたトラックの自己所有という点に加えて、以下のような上記最高裁判決と同様又は類似する事情が認定されていました。

  • 自ら所有するトラックを使用(ガソリン代、修理代、運送の際の高速道路料金、自動車保険料は自己負担)
  • 報酬は出来高払い制(会社が作成した運賃表に基づいて決定)
  • 契約上、会社の運送業務を専属的に行う地位にあった
  • 配送先、積載量、配送時間についての指示はあったが、ルートや休憩をとる場所、有料道路使用の有無などについては運転手で判断可能であった

⑵ 判決の内容

しかしながら、同判決は以下のとおり述べて、問題となった運転手の労働者性を肯定しました。

以上の(3)ないし(6)によると,Eら車持込み運転手は,被控訴人の配送業務について具体的な仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由がなく,勤務場所及び勤務時間の拘束を受け,その業務を再委託するなどの代替性も認められていないなどの点で,被控訴人の指揮監督下における労働に従事していたといえることに加え,兼業が禁止され,ほぼ毎日被控訴人の配送業務に従事するなど専従性が認められること,株式会社F及び被控訴人がEを従業員として社会保険に加入させていたこと等からすると,Eについては,配送業務に用いるトラックを所有し,自己の危険と計算の下に配送業務に従事し,株式会社F及び被控訴人の就業規則が適用されていなかったことを考慮しても,被控訴人の指揮監督下において労務の提供を行い,被控訴人から,その労務の提供に対する対償として本件傭車契約に基づく報酬の支払を受けていた者であるというべきであり,労働基準法にいう「労働者」に該当するものと認められる。

3 傭車運転手の労働者性はどのように考えるべきか?

筆者が確認したところ、傭車運転手について労働者性を肯定した裁判例は多くは見当たりませんでした。

もっとも、上記名古屋高裁判決の事案は問題となった運転手を社会保険に加入させていたという特徴があるものの、判示からはどのような事情が上記最高裁判決と結論を左右させたかは明らかではありません。
事業者側にとって傭車運転手の労働者性を肯定された場合に多大な負担が生じうることに照らすと、できる限り労働者性を積極づける事情を否定するよう注意して契約することが求められます
その判断は専門性の高いものであるため、多くの傭車運転手に外部発注をされるのであれば、一度契約内容や働かせ方に関して弁護士等の専門家のチェックを経ることをお勧めします。

むち打ち被害の交通事故で前科がつくことはあるのか?どういった事情が刑事処分を左右するかを弁護士が解説

交通事故で受けたケガの内容としてよく聞くむち打ち事案。
交通事故は被害者にも加害者にもなりうるものです、いずれの立場でも、加害者の刑事処分は関心事です。

もっとも、むち打ち事案の中には加害者が起訴・処罰されるケース、不起訴になるケースの両方存在し、何を基準に分かれているのかわからないところがあります。
そこで、本コラムでは、弁護士が交通事故のむち打ち事案について起訴・不起訴がどのような観点から分かれているかについて解説します。

1 自動車運転過失傷害罪について

むち打ち事案の場合、加害者は、危険運転行為が疑われるような一部の事案を除き、自動車運転処罰法5条に定める自動車運転過失傷害罪(過失運転致死傷罪)の責任を問われることが考えられます。
この罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされていますが、「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」ともされています。

過失運転致死傷罪は、「人を死傷させた」場合に問われる罪であるため、傷害の結果が発生したことが前提となります。

2 傷害の発生が立証できない・難しいケースについて

⑴ むち打ち事案の特徴

以上のとおり自動車運転過失傷害罪は傷害結果の発生が前提となるため、検察官は、むち打ちを理由に自動車運転過失傷害罪の責任を問う場合、刑事裁判でむち打ちという傷害結果の発生を立証しなければなりません。
しかし、むち打ちに関しては、傷害結果の証明が難しくなることがありうる問題をはらんでいます。

むち打ちは医学的な名称ではなく、病院で診断を受けた場合、その内容によって「外部性頸部症候群」、「神経根症」などと診断されることがあります。

このうち、よく診断される「外部性頸部症候群」は、受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、場合によっては筋の部分断裂、靭帯の損傷が生じたことが原因とされます。
レントゲンやMRIなどの画像診断検査では、明らかな異常を発見できないことが多くあります。

⑵傷害の発生が疑われやすいケースについて

交通事故事件の裁判例の中には、医師がむち打ちの診断を行いながらも、むち打ちという傷害結果の発生が認められないことを理由に無罪判決を下したものが複数存在します。
このような裁判例の傾向から、検察官の中には、「被害者の不詳の進行が、事故後、相当の日数を経てなされたような場合や、軽微な事故態様からして、負傷の事実が疑問であるような場合など」は、「傷害の有無の認定は、相当に慎重かつ厳格に行うべきであり、被害者の申告を鵜吞みにするようなことは、絶対に避けなければならない」と警鐘を鳴らす方もいます(※註1)。

したがって、事故の規模が軽微である、被害者の訴えや診断や事故発生から相当期間を経てされているなどの傷害発生を疑わせる方向に働く事情がある場合、嫌疑不十分による不起訴可能性が高まるものと考えられます。

3 起訴猶予のファクターとは?

過失の存在や傷害の発生を含めて有罪の立証が見込める場合でも、諸々を考慮して処罰を求めなく予定と考えて不起訴にすることがあります(起訴猶予)。
むち打ち事案は、比較的、傷害が重大なものとまではみられないことが多いと考えられます。
交通事故の処分に関わった検察官OBによれば、起訴猶予に付するかの判断に際しては、傷害結果以外には以下のようなファクターを考慮するものとされています(※註2)

  • 行為の悪質性
  • 被害者側の事情(落ち度など)
  • 被疑者の事情(前科など)
  • 被害者の処罰感情
  • 被害弁償・示談状況(保険加入の有無を含む)

捜査の場面でも、加療約3週間以下の事案については、被害者が処罰意思を明確にしている、無免許・赤信号無視などの一定の悪質性を表す事情が認められる事案などの上記のファクターが認められるような事案を除いて、事件処理に「簡約特例書式」という簡易な書式を適用することとしています。
このような扱いからすると、捜査機関としても、上記のようなファクターが認められる事案は処罰を求める可能性が低いものと扱っているようにも見受けられます。

4 終わりに

以上のように、起訴・不起訴を分けるファクターは素人目にはわかりにくい問題が含まれています。
また、事故発生後の挙動も起訴・不起訴を分けるファクターになることがあり、不起訴を得たい加害者としては何をすべきで、何をすべきでないかを把握しておくことが肝心です。

むち打ち事案の場合、加害者は逮捕されないままのケースも多くあるかと思われますが、そういった場合でも以上のとおり初期の対応が起訴・不起訴を分けるファクターにもなりうるため、早期に弁護士に一度相談することをお勧めします。

※註1:立花書房「Q&A 実例 交通事件捜査における現場の疑問(第2版)」城祐一郎著567~568頁参照
※註2:学陽書房「裁判例にみる交通事故の刑事処分・量刑判断」川上拓一編著41頁以下「検察官の終局処分の実情~交通事故事件」濱田毅

偽装一人親方・偽装請負(雇用か否か)の判断基準とは? 争いのポイントとリスクを弁護士が解説 

偽装一人親方、偽装請負といった言葉がニュースで上がることも増え、今年(2022年)には国交省が偽装一人親方の防止対策を強化するとして、下請指導ガイドラインの改定に向けた動きを見せているところです。
また、法律相談の場面でも請負や業務委託となっているものの、実態は労働者ではないかと疑われるケースについて、労使双方の側から相談を受けることがよくあります。

この雇用か否かのやっかいなところは、当事者の意図すら決定打ではないため、偽装の意図がない、お互い業務委託だと考えていたようなケースでも、監督官庁や裁判所が雇用と判断することがありうるということです。

そこで、このコラムでは、偽装一人親方・偽装請負を含め、雇用(労働者)か否かの判断基準がどういったものかや、後から雇用であると判断された場合の影響について解説をします。

1.よくある誤解:雇用〇✕判断の決定打ではない事情

相談に来られる方から、以下のような事情があるから「雇用にならないないはず」というお話を受けることがあります。

・作成した契約書の題名が「業務委託契約書」である
・「雇用ではないこと、労働基準法が適用されないことを確認する」という約定がある
・社会保険に加入しないことをお互いに了承している
・源泉徴収がされず、個人事業主として確定申告を行っている

しかし、これらの事情はいずれも雇用か否かを左右する決定打(これだけで雇用になる)という事情ではありません
むしろ、裁判所が現在採用している基準に照らすと、考慮されないか、又はされるとしてもかなり弱いファクターとして位置づけられています。

2.雇用か否かを決める判断基準とは

そこで、裁判所が現在採用している基準をご説明します。

(1) 判断の基本となる要素

労働基準法が労働者を「…使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義していることから(労働基準法9条)、
①労務提供の形態が使用されるという内容、すなわち指揮監督下の労働であるか、
②支払われている報酬が賃金である、すなわち労働に対する対価としての性質を有するか
という観点から、使用され従属する者(労働者)と評価できるか否かを判断するという枠組みで判断がされています。

①・②ともに表現が若干わかりにくいところですが、①は以下のような事情が肯定されるほど、指揮監督がある(強い)と判断されます。
・仕事を断れる自由があるか
・仕事の進め方をどの程度細かく指示・監督を受けているか
・特定の時間・場所で仕事をすることが求められているか
・仕事を第三者に代わってもらう・補助してもらうこと(代替性)が認められるか

他方、②は、報酬の額の算定方法がどの程度賃金と類似しているかという問題で、拘束時間に応じて支給されるなどの事情があるほど、労働に対する対価としての性質がある(強い)と判断されます。

(2) ①と②では判断が難しい場合

もっとも、①と②の二つの要素のみでは判断が困難な業種も存在します。
そこで、①では、判断が微妙なケースについては、以下のような事情も補強要素として考慮して判断がされることになります。

③事業者性の有無(考慮事情の例:仕事に使用される高価な機械、器具を所有している)
④専属性の程度(他社の下で働くことが禁止又は事実上難しいか否か)

ただし、③以降の要素はあくまで①と②で判断が難しい事案で考慮されるものであるため、①②でいわば足切りをされてしまう事案、例えば探偵に稼働時間1時間当たり1万円で尾行による素行調査を任せるような一般的な探偵業務(①の要素が否定)、成果物を1つ完成させるごとに報酬1000円を支払うような一般的な内職(②の要素が否定)は、③以降の要素を考慮するまでもなく労働契約とはされないことが多いでしょう。

3.契約書は請負・委託、実態は雇用の場合の影響

それでは、請負・業務委託のつもりで締結していた契約が雇用と判断された場合、その後の処理・扱いにどのような影響が生じるかを説明します。

(1) 解雇(契約終了)の場面

一般的に、請負契約や業務委託契約の場合、契約書上の約定に基づいて中途解約をすることも、契約を更新をしないことも法規制はありません。
しかし、雇用と判断された場合、労働契約法に定める解雇規制・雇止め規制が適用されるため、契約終了が無効となるリスクが高くなります。

解雇・雇止めが無効となる場合、事業主は、労働者が契約終了扱いになっている期間中に労務を提供していないとしても、その期間中の賃金を支払わなければならなくなります(いわゆるバックペイ)。

(2) 報酬請求の場面

業務委託や請負の場面では、1日の稼働で報酬を定めている場合もあります。
もっとも、雇用と判断された場合、いわゆる残業代、すなわち1日8時間又は週40時間を超えた労働や、深夜帯や法定休日とされる労働などについて、法律に定められる割増率分を上乗せした報酬を支払わなければなりません。

(3)労災保険の場面

業務委託・請負の名目で働く者であっても、労働者と判断できるケースでは、労災保険給付を受けることが可能になります(保険料を事故前から納めていることは、給付に必須ではありません。)

(4)健保・年金の場面

社会保険の加入は、健康保険料が安くなったり、厚生年金という形で負担額を上回る給付を受けられる期待が生じるという点で、労働者に利益のある福利厚生とされています。
そのため、雇用の実態を請負や委託という形で偽装した場合、増額した健康保険料や将来受給できなくなった年金を損害ととらえて、労働者側が損害賠償を求めることも考えられます。
ただし、厚生年金に関しては、将来の受給額への影響が明確ではないとして賠償を否定した裁判例もあり、社会保険に関していかなる責任追及が可能であるかは、裁判所としても見解が分かれているようです。

4.弁護士への相談をお勧めする理由

このように請負や委託という名称であっても、労働者側としては契約終了や労災事故の場面などでは、労働者として救済を受けられる可能性があります。
他方、事業者側としては、指揮監督が強い請負や委託を行う場合、偽装する意図がないとしても、労働者という判断がされないように契約内容や働かせ方を注意する必要があります。

しかし、雇用(労働者)か否かの判断基準は様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されるため、見通しがつきにくいところが多くあります。
そのため、契約終了や労災事故でお悩みの一人親方や、指揮監督が強い請負や委託を行うことが多い事業者の方は、先例をよく知る弁護士に相談をされることをお勧めします。

犯罪だと知らなかった・わからなかった場合でも罪になる?犯罪の成否を分ける基準を弁護士が解説!

入管法のような特別な法令や自治体の条例など内容があまり詳しく知られていない法律に関するご相談を取り扱っていると、犯罪(法律違反)だと知らなかったというご相談者の方がいらっしゃいます。
また、知らない方から荷物を預かったところ、違法薬物であった場合など、知らないうちに外から見れば犯罪に該当する行為に及んでしまったという相談を受けることもあります。

今回の記事では、このような知らなかった(故意がない)ことは犯罪の成否にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。

1 禁止と知らずに禁止行為を行ってしまったケース(違法性の錯誤)

法律で禁止されているのに、その禁止されていること自体を知らないで行為に及んでしまうケースは、一般に「違法性の錯誤」と呼ばれています。

窃盗、傷害、酒酔い運転などの行為が犯罪にあたることは明らかですが、風営法や廃棄物処理法など特定のお仕事に就いて初めて調べるような法律、入管法や個人情報保護法などの仕事で必要迫られて初めて調べるような法律の場合、あるいは日常生活でも道路交通法のように法改正が繰り返されている法律の場合、違法であることを知らずに法律を犯す行為に及んでしまうことがありえます。
このようなケースについて、刑法は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」としており(刑法38条3項)、判例も違法性の認識は犯罪の成立に必要ないものとしています

しかし、下級審(最高裁より等級の低い裁判所)判決の中には、違法性の認識がなかったことについて相当な理由があると言える場合には、犯罪の成立を否定したとみられるものが存在します。
ただし、このように犯罪の成立を否定した事例は多くはないようで、違法性の認識がないからと言って犯罪の成立が否定されることは稀とみた方が良いものと考えられます。

【例】
・会社経営者が、入管法上違法だと知らずに、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の外国人従業員に専ら建築現場での作業を命じた場合(不法就労助長罪)
・日本郵便の従業員、のような非公務員でない者(しかし、みなし公務員とされる者)に対して、公務員とみなされることを知らずに、口利きをしてもらうべく利益供与をする場合(贈収賄罪)
・まだ規制されていないと考えて、法律で禁止された薬物・植物を所持・使用した場合

2 ある事実を知らなかった結果、犯罪だとわからなかったケース(事実の錯誤①)

1のケースと異なり、法律ではなく、犯罪を基礎づけるような生の事実(一義的な事実)を知らなかったケースは、「事実の錯誤」と呼ばれています。

このような事実の錯誤の結果、認識した事実関係を前提にすれば犯罪が成立しない場合には、恋がないものとして犯罪の成立は否定されます。

【例】
⑴一時停止の標識が隠れて全く見えない交差点で、一時停止義務があると知らずに停止せず直進をした場合(道路交通法違反)
⑵18歳以上であると誤信して(18歳未満とは知らずに)、性交を行った場合(青少年保護育成条例違反)
⑶猟師が害獣と勘違いして人を撃って怪我をさせた場合
⑷覚醒剤だと知らずに友人から荷物を預かった場合
⑸女性を襲う暴漢と勘違いして、女性を守ろうと考え、女性をなだめているだけの人に攻撃してけがを負わせた場合

ただし、犯罪の中には傷害罪と過失致傷罪のように故意がない場合でも過失が認められる場合には犯罪が成立する類型が存在ます。上記の例でいえば⑶や⑷では、知らなかった(勘違い)に過失が認められるケースでは、過失犯(過失致傷罪)として処罰がされることがありえます。

3 犯罪を基礎づける事実を知らなかったケース(事実の錯誤②)

犯罪を基礎づける事実について知らないケースの中には、2のように結果として犯罪とわからなかったもののほかに、罪がより軽い犯罪だと考えていたというケースもあります。
この場合、外から見れば重い罪を犯したように見えてしまいます。
しかし、刑法は「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない」(刑法38条2項)としており、客観に沿った重い犯罪は成立しません。
この場合は、客観に沿った重い犯罪と、主観に沿った(認識していた事実関係だと成立する)犯罪とで重なり合いがある場合は、主観に沿った軽い罪の犯罪が成立するものとされています。
【例】
・人が住んでいる住居を人の住んでいない空き家であると考えて放火した場合
・覚醒剤を(所持した場合の罪がより軽い)麻薬と考えて所持していた場合

4 知らなかったから大丈夫ではない:弁護士に相談をお勧めする理由

以上でご説明したとおり、ある特定の犯罪だと考えていなかったケースでも、犯罪が成立するケースと成立しないケースがあり、その判断にはわかりにくい面があります。
また、本当に知らなかったとしても、捜査を行う警察・検察官や、判決を出す裁判官がそのとおり考えるとは限りません。
被疑者・被告人が知っていたか否かの認識を争っている場合、周辺事情やその他の部分の供述内容などから当時どのような認識を持っていたかを推測していくことになるため、知らなかったという事実を理解してもらうためには、弁護士のサポートを受けて、取り調べのアドバイスや有利な証拠の確保などに努めておくことが肝心です。

そのため、このようなケースでお悩みの場合には、ぜひ弁護士に相談することをお勧めします

前の職場から同僚・部下を引き連れて独立するのは違法? 引き抜きをした従業員の賠償責任を解説

不動産、建設、コンサル、学習塾をはじめ多くの業界では、いったん会社に勤めて経験やノウハウを培ったうえで、いざ同業種で独立起業を果たすという社員・従業員がいます。
このような独立起業を行う場合、独立をする従業員としては、一から面識のない方を対象に採用活動をするよりも、職場の同僚や部下などの見知った仲にある方を勧誘して雇ったほうが能力や相性等の面でリスクを下げられると考えられ、一緒に独立しようと試みることも多いでしょう。

もっとも、従業員が他の従業員を引き連れて独立起業することは、前の職場からみれば会社の資産と言うべき人材が奪い、損害を与えてしまう行為になりかねません。
そのため、このような独立起業時の引き抜き行為は、しばしば前の職場との間でトラブルの火種になり、従業員が前の職場から損害賠償を求められるという事態に発展します。

本コラムでは、このような前の職場から同僚や部下を引き連れて独立起業する行為がどのような場合に違法となるのか、どの程度の賠償を負うことになりえるのかを解説します。

 

目 次

 

1.ポイント①:違法になるのは基本的に在職中の引き抜き行為

(1) 在職中は会社の利益を不当に侵害しない義務を負う

まず押さえておくべきポイントは、違法になるのは基本的に在職中の引き抜き行為であるということです。

従業員の引き抜き行為の違法性について判断した裁判例は数多くありますが、英会話教室の従業員の引き抜き行為が問題とされた東京地裁平成3年2月25日判決は、次のような義務を根拠に、引き抜きを図った従業員に賠償を命じました。

「会社の従業員は、使用者に対して、雇用契約に付随する信義則上の義務として、就業規則を遵守するなど労働契約上の債務を忠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負い、従業員が右義務に違反した結果使用者に損害を与えた場合は、右損害を賠償すべき責任を負う」

他の裁判例の多くもこのような見解を前提に判断を下しています。
そのため、就業規則などで従業員の引き抜き行為が明確に禁じられている場合は当然として、就業規則などでこのようなルールが定められていない場合でも、引き抜きを行った従業員には賠償責任を認めることがありえます。

(2) 退職後は基本的に引抜行為は違法にはならない

一方、この使用者(会社)に対する義務は雇用契約に付随する義務であるため、雇用契約が終了した後、すなわち退職後にはなくなります。
したがって、従業員が退職後に引き抜きを行うことは基本的には違法になりえません。

ただし、退職時に引き抜き行為を禁止するような合意をしている場合には、その合意が適法な内容である限り引き抜きをしない義務を課されることになるため、合意に抵触するような引き抜きは違法になりえます。

また、裁判例の中には、使用者に損害を与える目的で従業員を一斉に退職させて会社の組織活動等が機能しえなくなるようにするなど、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様」でされたものについては違法性を肯定しうることを示唆したものもあり(東京地裁平成6年11月25日判決等)、退職後の引き抜き行為が絶対に違法にならないとまでは言えないと考えられます。

2.ポイント②「部下同僚への勧誘=違法な引き抜き」ではない

(1) 単なる転職の勧誘は違法ではない

次に押さえておくべきポイントは、部下や同僚への勧誘をした場合でも直ちに違法な引き抜きとされるわけではないということです。

一般的に、個人の転職の自由は最大限に保障されるべきであるという観点から、従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは仮に幹部従業員によるものであったとしても違法とはいえないものとされています。

(2) 違法か適法かはどのような基準・事情で判断されているのか?

勧誘を行う場合でも、独立する従業員は、退職時期を考慮したり、事前の予告を行うなどして会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきとされています。
そのため、これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉、かつ、大量に授業員を引き抜く等、その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には、それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負うものとされています。

社会的相当性を逸脱したか否かに関して裁判所が重視している事情としては、転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇及び人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた 方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)等が挙げられています。

3.ポイント③:どこまで賠償すべきかはケースバイケース

引き抜き行為について損害賠償を求める場合、損害発生の有無と損害額については、賠償を求める使用者側(元職場側)が立証しなければなりません。

しかし、ここでいう損害とは、基本的に引き抜き行為がなければ得られたはずであるという仮定をした場合の利益ということになります。
このような損害(一般的に「逸失利益」といいます)は、賠償額を証明することは物が壊れた場合の修理費用やけがの治療費のような加害行為や契約違反がなければ生じなかった出費よりも発生したといえるかが不確かであるため、立証のハードルは高くなることが一般です。

現に、裁判例の中には、引き抜き行為が契約違反に当たることを認めながら、損害が立証されていないことを理由に元職場側の請求を棄却したものもあります。(例えば東京地裁平成17年9月27日判決は、引き抜き行為を受けた先物取引の受託を行う会社が、引き抜きに伴って減少した顧客からの手数料収入分について賠償を求めたところ、営業を担当する人員数の増減と手数料収入の増減に相関関係が認められないとして賠償を否定しています。)

そのため、仮に引き抜き行為が明確な契約違反に当たる場合でも、元職場から多額の請求に応じるべきかどうかは、損害とされているものの内容を精査する必要があると言えます。

 

転職・独立起業の妨害にお悩みの方/社員の引き抜き行為にお悩みの方
  • 初回相談1時間無料  zoom相談対応
  • お電話からご予約いただけます
     平日午前9時30分~午後6時30分 03-5817-4001
     それ以外の時間帯・土日祝日 050-3695-5322
  • メール・LINEでもこちらからご予約いただけます

外国人労働者を解雇する場合の特徴について

日本国政府は、少子化等を原因とする労働力不足の対策として、特定技能制度の新設(2018年12月法改正による)をはじめとした外国人材の受入れ拡大に舵を切っています。
また、それ以前2012年から2020年現在に足るまで、外国人労働者の数は増加の一途を辿っており、日本の様々な職場で外国人の方を見かけるようになりました。
派遣会社・人材紹介会社の中には外国人材を中心的に扱うところも出てきています。
そのため、日本人同様、能力不足や問題行為などから、外国人労働者について解雇・雇止めを検討する事業主も増えてきたのではないでしょうか。

本コラムでは、そういった事業主の方のため、外国人労働者の解雇・雇止めについて、日本人労働者と比べてどういった特徴があるかについて解説をいたします。

目次

  1. 外国人でも解雇・雇止めの基準は変わらない
  2. 就労資格がない外国人に対する解雇の可否
  3. 就労資格に制限がある場合の解雇への影響
  4. 終わりに

1.外国人でも解雇・雇止めの基準は変わらない(大前提)

「労務を提供すべき地」(一般的には雇用契約等で定められた勤務地がこれに当たります)が日本である場合、雇用契約等であらかじめ特別な取り決めをしていない限り、解雇・雇止めの争いには日本の法律が適用されます(法の適用に関する通則法12条3項)。
仮に雇用契約等で解雇に関する紛争を日本以外に法律により争うことを合意していたとしても、労働者側が異議を述べた場合、無効になる可能性があります(同法12条1項、2項)

そのため、外国人労働者であっても、日本を勤務地としているのであれば、日本人と同様に、日本の法律が定める基準によって解雇・雇止めの有効・無効が判断されることになります。
すなわち、
・解雇の場合は、①客観的に合理的な理由 と ②解雇が社会通念上相当であること が要求されます(労働契約法16条)。
・有期雇用の更新を申し込まれた場合、a.有期雇用が過去に反復して更新されており、更新をしないことが無期雇用の解雇と同視できる場合 b.有期雇用が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合、更新拒絶について、①客観的に合理的な理由 と ②拒絶が社会通念上相当であることが要求されます(労働契約法19条)。

2.就労資格がない外国人に対する解雇の可否

一般的に、使用者側が就労資格がないことを理由に外国人を解雇することは可能(有効)であるとされています。
就労資格のない外国人であることを認識しながら就労を行わせることは不法就労助長罪に当たるものといえ、使用者側は犯罪に当たることを回避するためにも、当該外国人を解雇する必要があるからです。
この点について、使用者側が不法就労であることを知りながら雇用し、就労させた場合には、解雇を主張すること信義則上認められないとする見解もあります。

しかし、その見解をとる場合でも、適法に復職できる可能性がないため、復職を求める訴え(労働契約上の地位確認請求)を提起したとしても、訴えの利益がないものとして却下され、結局は復職を実現することはできないとされています。

なお、解雇は雇用契約を終了させる行為であり、過去に遡って雇用がなかったことにさせるものではないため、不法就労であるからといって使用者側が外国人から提供を受けた労働の対価である給料の支払を免れることにはならない点はご注意ください。

3.就労資格に制限がある場合の解雇への影響

就労資格を有する外国人労働者の場合、外国人であることが解雇の可否に直接影響を与えることは考え難く、日本人同様に、解雇について客観的に合理的な理由と解雇を行うことの相当性が要求されます。

もっとも、技能実習のような在留資格に基づいて採用されている外国人労働者の場合、有期雇用で採用されていることが通常です。
そして、有期雇用期間中の解雇は、「やむを得ない事由」が要求され、無期雇用の解雇よりもハードルが高くなっており、解雇が可能となるケースは極めて限定されるものと考えられます。

また、当該外国人労働者が就労系の在留資格に基づいて在留・就労している場合、当該在留資格に係る活動の範囲内の業務でしか就労させることができないため、配置転換が大きく制限されます。
そうすると、例えば他の部署に人員不足があったり、当該外国人労働者が他の部署でより能力を発揮できる余地がある場合でも、在留資格の内容からみて異動後に就かせたい業務を行わせることができない限りは、このような事情は解雇の判断に大きく影響しない可能性があります。

4.終わりに

以上のとおり、労働者が外国人であるからと言って解雇・雇止めの要件が変わることはありませんが、就労内容が制限されるなどの特殊な立場が解雇・雇い止めの可否に影響を与えることがあります。
また、外国人労働者を解雇した場合、当該外国人の在留資格によっては、使用者側が入管に届出を行うなどの特別の義務・配慮が求められることがあります(入管法19条の17)。
使用者がこのような入管法上の義務や労基法を遵守しなかった場合、他の外国人労働者の更新の場面でも不利に斟酌されることがあります。

そのため、外国人労働者を採用される場合、その労務管理について不備がないように、解雇・雇止めをするときも問題とならないように、社労士・弁護士等の専門家に相談して適切に対応することをお勧めいたします。

外国人労働者が解雇された場合、在留資格(ビザ)はどうなるの?(後編)在留資格を踏まえた不当解雇の闘い方

前編のコラムでは、外国人労働者に対する解雇・雇止めが在留資格に与える影響や注意点について説明をいたしましたが、就職活動を行うのではなく元の職場に復職することを求めたい方、就職活動が功を奏さず解雇を争いたい方もいらっしゃいます。
また、懲戒解雇を受け、会社都合退職として扱われない場合は、「特定活動」への在留資格変更は難しいと考えられます。

そこで、後編のコラムでは、解雇の効力を争いたい場合に在留資格との関係で外国人がとりうる手段について、ご説明をいたします。

目次

  1. 在留資格の取得前・在留期限前の解決を目指す
  2. いったん帰国して解決時に再入国する
  3. 労働契約上の地位保全の仮処分
  4. 解雇を争う場合にどのような手段を選択すべきか

1.在留資格の取消前・在留期限前の解決を目指す

まず、在留資格の取消前、在留期限の到来前の解決を目指すことが挙げられます。
労働事件の訴訟は、訴え提起から終了するまでの期間が平均14.5か月(平成30年度の数値)と長期化する傾向にあるため、迅速な解決を目指すのであれば交渉又は労働審判を選択することが考えられます。

もっとも、交渉・労働審判のいずれも、相手方が争う姿勢を崩さない場合は解決に至ることはできません
また、労働審判については、争点が複雑であるなどの場合、裁判所の判断(労働審判)を下すことなく終了してしまい、解決が図れないことがあります(労働審判法24条)。

2.いったん帰国して解決時に再入国する

次に、外国人労働者の方にいったん帰国していただき、弁護士と連絡を取りながら争うというのも方針として考えられます。
労働審判の場合、当事者への事情の聞き取りは第一回目に集中して行われるため、第二回目以降について当該外国人労働者が出頭する必要性は小さくなります。

もっとも、この方法でも、弁護士と対面での打合せができない、尋問のために日本へ渡航する必要があるコストがかかる、永住許可の要件である日本の継続居住が中断してしまう在留資格を取得しなおす必要が生じるといったデメリットがあります。

3.労働契約上の地位保全の仮処分

最後に、訴訟を提起すること前提に、労働契約上の地位保全の仮処分を行うことが考えられます。
労働契約上の地位保全の仮処分とは、解雇により失われた労働者としての地位を、訴訟による解決まで時間がかかる可能性が高い事を考慮し、暫定的に復活させるものです。

この処分が認められるには、被保全権利の存在(解雇・雇止め紛争の場合、雇用関係の存在がこれに当たります)と保全の必要性を疎明(訴訟で必要となる「立証」よりもハードルを下げたもの)が必要とされています。
解雇時に労働者が行うことができる仮処分としては賃金支払いの仮処分もあるところ、賃金支払いの仮処分を申し立てれば労働者としての地位を暫定的に復活させる必要性は小さい(ない)として、保全の必要性が否定されることが通常です。

もっとも、外国人労働者の場合、労働契約上の地位を失うと、上記のとおり在留資格も失ってしまう危険があるため、労働契約上の地位保全の仮処分も認められることがあります(これを認めた裁判例として、東京地裁昭和62年1月26日決定:労判497号138頁があります。)

4.解雇を争う場合どのような手段を選択すべきか

以上のとおり、外国人労働者が解雇を争う場合、どのような手段をとるべきかは、事案の内容(複雑さ、長期化の見通しの有無など)、当該外国人の希望、資力等に応じてケースバイケースであると言えます。
そのため、どの手段をとることが適切かを確認するためにも、弁護士にしっかりと相談をすることをお勧めします。

法律相談のお申込み・問い合わせ

00-1234-5678

受付時間:平日9:30~18:30

お電話で 弁護士岡本宛 とお申し付けください。

東京都台東区東上野三丁目36-1 上野第二ビル201

LINE・メールでのお問い合わせ

受付時間以外の連絡先

平日18:30~22:00・土日祝日10:00~21:00

050-3695-5322

無料対面相談のご予約

00-1234-5678

翔栄法律事務所

東京都台東区東上野三丁目36-1 上野第二ビル201

受付時間:平日 9:30 ~ 18:30

お電話で 弁護士岡本宛 とお申し付けください

受付時間以外の連絡先

平日 18:30 ~ 22:00

土日祝日 10:00 ~ 21:00

050-3695-5322

初回45分無料

無料相談対応分野

労働問題・刑事事件・ビザ問題

ご家族が逮捕された場合

通常、法律相談は面談でのみ受け付けておりますが、ご家族が逮捕された場合、お電話ください。弁護士の手が空いていれば、電話での相談の対応をいたします。

労働問題に関しても現状どうしてもお時間が取れない方のみ同様の対応をいたします。

事案により対面でないとお答えがするのが難しい場合がございます。

匿名相談は受付できません。

アクセス

JR線 上野駅 徒歩5分
東京メトロ銀座線 稲荷町駅 徒歩2分

主な対応エリア

但し業務の状況等によりお断りすることがございますので予めご了承ください。
ページトップへ