犯罪だと知らなかった・わからなかった場合でも罪になる?犯罪の成否を分ける基準を弁護士が解説!
入管法のような特別な法令や自治体の条例など内容があまり詳しく知られていない法律に関するご相談を取り扱っていると、犯罪(法律違反)だと知らなかったというご相談者の方がいらっしゃいます。
また、知らない方から荷物を預かったところ、違法薬物であった場合など、知らないうちに外から見れば犯罪に該当する行為に及んでしまったという相談を受けることもあります。
今回の記事では、このような知らなかった(故意がない)ことは犯罪の成否にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。
1 禁止と知らずに禁止行為を行ってしまったケース(違法性の錯誤)
法律で禁止されているのに、その禁止されていること自体を知らないで行為に及んでしまうケースは、一般に「違法性の錯誤」と呼ばれています。
窃盗、傷害、酒酔い運転などの行為が犯罪にあたることは明らかですが、風営法や廃棄物処理法など特定のお仕事に就いて初めて調べるような法律、入管法や個人情報保護法などの仕事で必要迫られて初めて調べるような法律の場合、あるいは日常生活でも道路交通法のように法改正が繰り返されている法律の場合、違法であることを知らずに法律を犯す行為に及んでしまうことがありえます。
このようなケースについて、刑法は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」としており(刑法38条3項)、判例も違法性の認識は犯罪の成立に必要ないものとしています。
しかし、下級審(最高裁より等級の低い裁判所)判決の中には、違法性の認識がなかったことについて相当な理由があると言える場合には、犯罪の成立を否定したとみられるものが存在します。
ただし、このように犯罪の成立を否定した事例は多くはないようで、違法性の認識がないからと言って犯罪の成立が否定されることは稀とみた方が良いものと考えられます。
【例】
・会社経営者が、入管法上違法だと知らずに、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の外国人従業員に専ら建築現場での作業を命じた場合(不法就労助長罪)
・日本郵便の従業員、のような非公務員でない者(しかし、みなし公務員とされる者)に対して、公務員とみなされることを知らずに、口利きをしてもらうべく利益供与をする場合(贈収賄罪)
・まだ規制されていないと考えて、法律で禁止された薬物・植物を所持・使用した場合
2 ある事実を知らなかった結果、犯罪だとわからなかったケース(事実の錯誤①)
1のケースと異なり、法律ではなく、犯罪を基礎づけるような生の事実(一義的な事実)を知らなかったケースは、「事実の錯誤」と呼ばれています。
このような事実の錯誤の結果、認識した事実関係を前提にすれば犯罪が成立しない場合には、恋がないものとして犯罪の成立は否定されます。
【例】
⑴一時停止の標識が隠れて全く見えない交差点で、一時停止義務があると知らずに停止せず直進をした場合(道路交通法違反)
⑵18歳以上であると誤信して(18歳未満とは知らずに)、性交を行った場合(青少年保護育成条例違反)
⑶猟師が害獣と勘違いして人を撃って怪我をさせた場合
⑷覚醒剤だと知らずに友人から荷物を預かった場合
⑸女性を襲う暴漢と勘違いして、女性を守ろうと考え、女性をなだめているだけの人に攻撃してけがを負わせた場合
ただし、犯罪の中には傷害罪と過失致傷罪のように故意がない場合でも過失が認められる場合には犯罪が成立する類型が存在ます。上記の例でいえば⑶や⑷では、知らなかった(勘違い)に過失が認められるケースでは、過失犯(過失致傷罪)として処罰がされることがありえます。
3 犯罪を基礎づける事実を知らなかったケース(事実の錯誤②)
犯罪を基礎づける事実について知らないケースの中には、2のように結果として犯罪とわからなかったもののほかに、罪がより軽い犯罪だと考えていたというケースもあります。
この場合、外から見れば重い罪を犯したように見えてしまいます。
しかし、刑法は「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない」(刑法38条2項)としており、客観に沿った重い犯罪は成立しません。
この場合は、客観に沿った重い犯罪と、主観に沿った(認識していた事実関係だと成立する)犯罪とで重なり合いがある場合は、主観に沿った軽い罪の犯罪が成立するものとされています。
【例】
・人が住んでいる住居を人の住んでいない空き家であると考えて放火した場合
・覚醒剤を(所持した場合の罪がより軽い)麻薬と考えて所持していた場合
4 知らなかったから大丈夫ではない:弁護士に相談をお勧めする理由
以上でご説明したとおり、ある特定の犯罪だと考えていなかったケースでも、犯罪が成立するケースと成立しないケースがあり、その判断にはわかりにくい面があります。
また、本当に知らなかったとしても、捜査を行う警察・検察官や、判決を出す裁判官がそのとおり考えるとは限りません。
被疑者・被告人が知っていたか否かの認識を争っている場合、周辺事情やその他の部分の供述内容などから当時どのような認識を持っていたかを推測していくことになるため、知らなかったという事実を理解してもらうためには、弁護士のサポートを受けて、取り調べのアドバイスや有利な証拠の確保などに努めておくことが肝心です。
そのため、このようなケースでお悩みの場合には、ぜひ弁護士に相談することをお勧めします