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コラム

むち打ち事案では刑事処分は下されるのか?どういった事情が結論を左右しうるかを弁護士が解説

交通事故で受けたケガの内容としてよく聞くむち打ち事案。
交通事故は被害者にも加害者にもなりうるものです、いずれの立場でも、加害者の刑事処分は関心事です。

もっとも、むち打ち事案の中には加害者が起訴・処罰されるケース、不起訴になるケースの両方存在し、何を基準に分かれているのかわからないところがあります。
そこで、本コラムでは、弁護士が交通事故のむち打ち事案について起訴・不起訴がどのような観点から分かれているかについて解説します。

1 自動車運転過失傷害罪について

むち打ち事案の場合、加害者は、危険運転行為が疑われるような一部の事案を除き、自動車運転処罰法5条に定める自動車運転過失傷害罪(過失運転致死傷罪)の責任を問われることが考えられます。
この罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされていますが、「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」ともされています。

過失運転致死傷罪は、「人を死傷させた」場合に問われる罪であるため、傷害の結果が発生したことが前提となります。

2 傷害の発生が立証できない・難しいケースについて

⑴ むち打ち事案の特徴

以上のとおり自動車運転過失傷害罪は傷害結果の発生が前提となるため、検察官は、むち打ちを理由に自動車運転過失傷害罪の責任を問う場合、刑事裁判でむち打ちという傷害結果の発生を立証しなければなりません。
しかし、むち打ちに関しては、傷害結果の証明が難しくなることがありうる問題をはらんでいます。

むち打ちは医学的な名称ではなく、病院で診断を受けた場合、その内容によって「外部性頸部症候群」、「神経根症」などと診断されることがあります。

このうち、よく診断される「外部性頸部症候群」は、受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、場合によっては筋の部分断裂、靭帯の損傷が生じたことが原因とされます。
レントゲンやMRIなどの画像診断検査では、明らかな異常を発見できないことが多くあります。

⑵傷害の発生が疑われやすいケースについて

交通事故事件の裁判例の中には、医師がむち打ちの診断を行いながらも、むち打ちという傷害結果の発生が認められないことを理由に無罪判決を下したものが複数存在します。
このような裁判例の傾向から、検察官の中には、「被害者の不詳の進行が、事故後、相当の日数を経てなされたような場合や、軽微な事故態様からして、負傷の事実が疑問であるような場合など」は、「傷害の有無の認定は、相当に慎重かつ厳格に行うべきであり、被害者の申告を鵜吞みにするようなことは、絶対に避けなければならない」と警鐘を鳴らす方もいます(※註1)。

したがって、事故の規模が軽微である、被害者の訴えや診断や事故発生から相当期間を経てされているなどの傷害発生を疑わせる方向に働く事情がある場合、嫌疑不十分による不起訴可能性が高まるものと考えられます。

3 起訴猶予のファクターとは?

過失の存在や傷害の発生を含めて有罪の立証が見込める場合でも、諸々を考慮して処罰を求めなく予定と考えて不起訴にすることがあります(起訴猶予)。
むち打ち事案は、比較的、傷害が重大なものとまではみられないことが多いと考えられます。
交通事故の処分に関わった検察官OBによれば、起訴猶予に付するかの判断に際しては、傷害結果以外には以下のようなファクターを考慮するものとされています(※註2)

  • 行為の悪質性
  • 被害者側の事情(落ち度など)
  • 被疑者の事情(前科など)
  • 被害者の処罰感情
  • 被害弁償・示談状況(保険加入の有無を含む)

捜査の場面でも、加療約3週間以下の事案については、被害者が処罰意思を明確にしている、無免許・赤信号無視などの一定の悪質性を表す事情が認められる事案などの上記のファクターが認められるような事案を除いて、事件処理に「簡約特例書式」という簡易な書式を適用することとしています。
このような扱いからすると、捜査機関としても、上記のようなファクターが認められる事案は処罰を求める可能性が低いものと扱っているようにも見受けられます。

4 終わりに

以上のように、起訴・不起訴を分けるファクターは素人目にはわかりにくい問題が含まれています。
また、事故発生後の挙動も起訴・不起訴を分けるファクターになることがあり、不起訴を得たい加害者としては何をすべきで、何をすべきでないかを把握しておくことが肝心です。

むち打ち事案の場合、加害者は逮捕されないままのケースも多くあるかと思われますが、そういった場合でも以上のとおり初期の対応が起訴・不起訴を分けるファクターにもなりうるため、早期に弁護士に一度相談することをお勧めします。

※註1:立花書房「Q&A 実例 交通事件捜査における現場の疑問(第2版)」城祐一郎著567~568頁参照
※註2:学陽書房「裁判例にみる交通事故の刑事処分・量刑判断」川上拓一編著41頁以下「検察官の終局処分の実情~交通事故事件」濱田毅

偽装一人親方・偽装請負(雇用か否か)の判断基準とは? 争いのポイントとリスクを弁護士が解説 

偽装一人親方、偽装請負といった言葉がニュースで上がることも増え、今年(2022年)には国交省が偽装一人親方の防止対策を強化するとして、下請指導ガイドラインの改定に向けた動きを見せているところです。
また、法律相談の場面でも請負や業務委託となっているものの、実態は労働者ではないかと疑われるケースについて、労使双方の側から相談を受けることがよくあります。

この雇用か否かのやっかいなところは、当事者の意図すら決定打ではないため、偽装の意図がない、お互い業務委託だと考えていたようなケースでも、監督官庁や裁判所が雇用と判断することがありうるということです。

そこで、このコラムでは、偽装一人親方・偽装請負を含め、雇用(労働者)か否かの判断基準がどういったものかや、後から雇用であると判断された場合の影響について解説をします。

1.よくある誤解:雇用〇✕判断の決定打ではない事情

相談に来られる方から、以下のような事情があるから「雇用にならないないはず」というお話を受けることがあります。

・作成した契約書の題名が「業務委託契約書」である
・「雇用ではないこと、労働基準法が適用されないことを確認する」という約定がある
・社会保険に加入しないことをお互いに了承している
・源泉徴収がされず、個人事業主として確定申告を行っている

しかし、これらの事情はいずれも雇用か否かを左右する決定打(これだけで雇用になる)という事情ではありません
むしろ、裁判所が現在採用している基準に照らすと、考慮されないか、又はされるとしてもかなり弱いファクターとして位置づけられています。

2.雇用か否かを決める判断基準とは

そこで、裁判所が現在採用している基準をご説明します。

(1) 判断の基本となる要素

労働基準法が労働者を「…使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義していることから(労働基準法9条)、
①労務提供の形態が使用されるという内容、すなわち指揮監督下の労働であるか、
②支払われている報酬が賃金である、すなわち労働に対する対価としての性質を有するか
という観点から、使用され従属する者(労働者)と評価できるか否かを判断するという枠組みで判断がされています。

①・②ともに表現が若干わかりにくいところですが、①は以下のような事情が肯定されるほど、指揮監督がある(強い)と判断されます。
・仕事を断れる自由があるか
・仕事の進め方をどの程度細かく指示・監督を受けているか
・特定の時間・場所で仕事をすることが求められているか
・仕事を第三者に代わってもらう・補助してもらうこと(代替性)が認められるか

他方、②は、報酬の額の算定方法がどの程度賃金と類似しているかという問題で、拘束時間に応じて支給されるなどの事情があるほど、労働に対する対価としての性質がある(強い)と判断されます。

(2) ①と②では判断が難しい場合

もっとも、①と②の二つの要素のみでは判断が困難な業種も存在します。
そこで、①では、判断が微妙なケースについては、以下のような事情も補強要素として考慮して判断がされることになります。

③事業者性の有無(考慮事情の例:仕事に使用される高価な機械、器具を所有している)
④専属性の程度(他社の下で働くことが禁止又は事実上難しいか否か)

ただし、③以降の要素はあくまで①と②で判断が難しい事案で考慮されるものであるため、①②でいわば足切りをされてしまう事案、例えば探偵に稼働時間1時間当たり1万円で尾行による素行調査を任せるような一般的な探偵業務(①の要素が否定)、成果物を1つ完成させるごとに報酬1000円を支払うような一般的な内職(②の要素が否定)は、③以降の要素を考慮するまでもなく労働契約とはされないことが多いでしょう。

3.契約書は請負・委託、実態は雇用の場合の影響

それでは、請負・業務委託のつもりで締結していた契約が雇用と判断された場合、その後の処理・扱いにどのような影響が生じるかを説明します。

(1) 解雇(契約終了)の場面

一般的に、請負契約や業務委託契約の場合、契約書上の約定に基づいて中途解約をすることも、契約を更新をしないことも法規制はありません。
しかし、雇用と判断された場合、労働契約法に定める解雇規制・雇止め規制が適用されるため、契約終了が無効となるリスクが高くなります。

解雇・雇止めが無効となる場合、事業主は、労働者が契約終了扱いになっている期間中に労務を提供していないとしても、その期間中の賃金を支払わなければならなくなります(いわゆるバックペイ)。

(2) 報酬請求の場面

業務委託や請負の場面では、1日の稼働で報酬を定めている場合もあります。
もっとも、雇用と判断された場合、いわゆる残業代、すなわち1日8時間又は週40時間を超えた労働や、深夜帯や法定休日とされる労働などについて、法律に定められる割増率分を上乗せした報酬を支払わなければなりません。

(3)労災保険の場面

業務委託・請負の名目で働く者であっても、労働者と判断できるケースでは、労災保険給付を受けることが可能になります(保険料を事故前から納めていることは、給付に必須ではありません。)

(4)健保・年金の場面

社会保険の加入は、健康保険料が安くなったり、厚生年金という形で負担額を上回る給付を受けられる期待が生じるという点で、労働者に利益のある福利厚生とされています。
そのため、雇用の実態を請負や委託という形で偽装した場合、増額した健康保険料や将来受給できなくなった年金を損害ととらえて、労働者側が損害賠償を求めることも考えられます。
ただし、厚生年金に関しては、将来の受給額への影響が明確ではないとして賠償を否定した裁判例もあり、社会保険に関していかなる責任追及が可能であるかは、裁判所としても見解が分かれているようです。

4.弁護士への相談をお勧めする理由

このように請負や委託という名称であっても、労働者側としては契約終了や労災事故の場面などでは、労働者として救済を受けられる可能性があります。
他方、事業者側としては、指揮監督が強い請負や委託を行う場合、偽装する意図がないとしても、労働者という判断がされないように契約内容や働かせ方を注意する必要があります。

しかし、雇用(労働者)か否かの判断基準は様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されるため、見通しがつきにくいところが多くあります。
そのため、契約終了や労災事故でお悩みの一人親方や、指揮監督が強い請負や委託を行うことが多い事業者の方は、先例をよく知る弁護士に相談をされることをお勧めします。

犯罪だと知らなかった・わからなかった場合でも罪になる?犯罪の成否を分ける基準を弁護士が解説!

入管法のような特別な法令や自治体の条例など内容があまり詳しく知られていない法律に関するご相談を取り扱っていると、犯罪(法律違反)だと知らなかったというご相談者の方がいらっしゃいます。
また、知らない方から荷物を預かったところ、違法薬物であった場合など、知らないうちに外から見れば犯罪に該当する行為に及んでしまったという相談を受けることもあります。

今回の記事では、このような知らなかった(故意がない)ことは犯罪の成否にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。

1 禁止と知らずに禁止行為を行ってしまったケース(違法性の錯誤)

法律で禁止されているのに、その禁止されていること自体を知らないで行為に及んでしまうケースは、一般に「違法性の錯誤」と呼ばれています。

窃盗、傷害、酒酔い運転などの行為が犯罪にあたることは明らかですが、風営法や廃棄物処理法など特定のお仕事に就いて初めて調べるような法律、入管法や個人情報保護法などの仕事で必要迫られて初めて調べるような法律の場合、あるいは日常生活でも道路交通法のように法改正が繰り返されている法律の場合、違法であることを知らずに法律を犯す行為に及んでしまうことがありえます。
このようなケースについて、刑法は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」としており(刑法38条3項)、判例も違法性の認識は犯罪の成立に必要ないものとしています

しかし、下級審(最高裁より等級の低い裁判所)判決の中には、違法性の認識がなかったことについて相当な理由があると言える場合には、犯罪の成立を否定したとみられるものが存在します。
ただし、このように犯罪の成立を否定した事例は多くはないようで、違法性の認識がないからと言って犯罪の成立が否定されることは稀とみた方が良いものと考えられます。

【例】
・会社経営者が、入管法上違法だと知らずに、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の外国人従業員に専ら建築現場での作業を命じた場合(不法就労助長罪)
・日本郵便の従業員、のような非公務員でない者(しかし、みなし公務員とされる者)に対して、公務員とみなされることを知らずに、口利きをしてもらうべく利益供与をする場合(贈収賄罪)
・まだ規制されていないと考えて、法律で禁止された薬物・植物を所持・使用した場合

2 ある事実を知らなかった結果、犯罪だとわからなかったケース(事実の錯誤①)

1のケースと異なり、法律ではなく、犯罪を基礎づけるような生の事実(一義的な事実)を知らなかったケースは、「事実の錯誤」と呼ばれています。

このような事実の錯誤の結果、認識した事実関係を前提にすれば犯罪が成立しない場合には、恋がないものとして犯罪の成立は否定されます。

【例】
⑴一時停止の標識が隠れて全く見えない交差点で、一時停止義務があると知らずに停止せず直進をした場合(道路交通法違反)
⑵18歳以上であると誤信して(18歳未満とは知らずに)、性交を行った場合(青少年保護育成条例違反)
⑶猟師が害獣と勘違いして人を撃って怪我をさせた場合
⑷覚醒剤だと知らずに友人から荷物を預かった場合
⑸女性を襲う暴漢と勘違いして、女性を守ろうと考え、女性をなだめているだけの人に攻撃してけがを負わせた場合

ただし、犯罪の中には傷害罪と過失致傷罪のように故意がない場合でも過失が認められる場合には犯罪が成立する類型が存在ます。上記の例でいえば⑶や⑷では、知らなかった(勘違い)に過失が認められるケースでは、過失犯(過失致傷罪)として処罰がされることがありえます。

3 犯罪を基礎づける事実を知らなかったケース(事実の錯誤②)

犯罪を基礎づける事実について知らないケースの中には、2のように結果として犯罪とわからなかったもののほかに、罪がより軽い犯罪だと考えていたというケースもあります。
この場合、外から見れば重い罪を犯したように見えてしまいます。
しかし、刑法は「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない」(刑法38条2項)としており、客観に沿った重い犯罪は成立しません。
この場合は、客観に沿った重い犯罪と、主観に沿った(認識していた事実関係だと成立する)犯罪とで重なり合いがある場合は、主観に沿った軽い罪の犯罪が成立するものとされています。
【例】
・人が住んでいる住居を人の住んでいない空き家であると考えて放火した場合
・覚醒剤を(所持した場合の罪がより軽い)麻薬と考えて所持していた場合

4 知らなかったから大丈夫ではない:弁護士に相談をお勧めする理由

以上でご説明したとおり、ある特定の犯罪だと考えていなかったケースでも、犯罪が成立するケースと成立しないケースがあり、その判断にはわかりにくい面があります。
また、本当に知らなかったとしても、捜査を行う警察・検察官や、判決を出す裁判官がそのとおり考えるとは限りません。
被疑者・被告人が知っていたか否かの認識を争っている場合、周辺事情やその他の部分の供述内容などから当時どのような認識を持っていたかを推測していくことになるため、知らなかったという事実を理解してもらうためには、弁護士のサポートを受けて、取り調べのアドバイスや有利な証拠の確保などに努めておくことが肝心です。

そのため、このようなケースでお悩みの場合には、ぜひ弁護士に相談することをお勧めします

前の職場から同僚・部下を引き連れて独立するのは違法? 引き抜きをした従業員の賠償責任を解説

不動産、建設、コンサル、学習塾をはじめ多くの業界では、いったん会社に勤めて経験やノウハウを培ったうえで、いざ同業種で独立起業を果たすという社員・従業員がいます。
このような独立起業を行う場合、独立をする従業員としては、一から面識のない方を対象に採用活動をするよりも、職場の同僚や部下などの見知った仲にある方を勧誘して雇ったほうが能力や相性等の面でリスクを下げられると考えられ、一緒に独立しようと試みることも多いでしょう。

もっとも、従業員が他の従業員を引き連れて独立起業することは、前の職場からみれば会社の資産と言うべき人材が奪い、損害を与えてしまう行為になりかねません。
そのため、このような独立起業時の引き抜き行為は、しばしば前の職場との間でトラブルの火種になり、従業員が前の職場から損害賠償を求められるという事態に発展します。

本コラムでは、このような前の職場から同僚や部下を引き連れて独立起業する行為がどのような場合に違法となるのか、どの程度の賠償を負うことになりえるのかを解説します。

 

目 次

 

1.ポイント①:違法になるのは基本的に在職中の引き抜き行為

(1) 在職中は会社の利益を不当に侵害しない義務を負う

まず押さえておくべきポイントは、違法になるのは基本的に在職中の引き抜き行為であるということです。

従業員の引き抜き行為の違法性について判断した裁判例は数多くありますが、英会話教室の従業員の引き抜き行為が問題とされた東京地裁平成3年2月25日判決は、次のような義務を根拠に、引き抜きを図った従業員に賠償を命じました。

「会社の従業員は、使用者に対して、雇用契約に付随する信義則上の義務として、就業規則を遵守するなど労働契約上の債務を忠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負い、従業員が右義務に違反した結果使用者に損害を与えた場合は、右損害を賠償すべき責任を負う」

他の裁判例の多くもこのような見解を前提に判断を下しています。
そのため、就業規則などで従業員の引き抜き行為が明確に禁じられている場合は当然として、就業規則などでこのようなルールが定められていない場合でも、引き抜きを行った従業員には賠償責任を認めることがありえます。

(2) 退職後は基本的に引抜行為は違法にはならない

一方、この使用者(会社)に対する義務は雇用契約に付随する義務であるため、雇用契約が終了した後、すなわち退職後にはなくなります。
したがって、従業員が退職後に引き抜きを行うことは基本的には違法になりえません。

ただし、退職時に引き抜き行為を禁止するような合意をしている場合には、その合意が適法な内容である限り引き抜きをしない義務を課されることになるため、合意に抵触するような引き抜きは違法になりえます。

また、裁判例の中には、使用者に損害を与える目的で従業員を一斉に退職させて会社の組織活動等が機能しえなくなるようにするなど、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様」でされたものについては違法性を肯定しうることを示唆したものもあり(東京地裁平成6年11月25日判決等)、退職後の引き抜き行為が絶対に違法にならないとまでは言えないと考えられます。

2.ポイント②「部下同僚への勧誘=違法な引き抜き」ではない

(1) 単なる転職の勧誘は違法ではない

次に押さえておくべきポイントは、部下や同僚への勧誘をした場合でも直ちに違法な引き抜きとされるわけではないということです。

一般的に、個人の転職の自由は最大限に保障されるべきであるという観点から、従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは仮に幹部従業員によるものであったとしても違法とはいえないものとされています。

(2) 違法か適法かはどのような基準・事情で判断されているのか?

勧誘を行う場合でも、独立する従業員は、退職時期を考慮したり、事前の予告を行うなどして会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきとされています。
そのため、これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉、かつ、大量に授業員を引き抜く等、その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には、それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負うものとされています。

社会的相当性を逸脱したか否かに関して裁判所が重視している事情としては、転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇及び人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた 方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)等が挙げられています。

3.ポイント③:どこまで賠償すべきかはケースバイケース

引き抜き行為について損害賠償を求める場合、損害発生の有無と損害額については、賠償を求める使用者側(元職場側)が立証しなければなりません。

しかし、ここでいう損害とは、基本的に引き抜き行為がなければ得られたはずであるという仮定をした場合の利益ということになります。
このような損害(一般的に「逸失利益」といいます)は、賠償額を証明することは物が壊れた場合の修理費用やけがの治療費のような加害行為や契約違反がなければ生じなかった出費よりも発生したといえるかが不確かであるため、立証のハードルは高くなることが一般です。

現に、裁判例の中には、引き抜き行為が契約違反に当たることを認めながら、損害が立証されていないことを理由に元職場側の請求を棄却したものもあります。(例えば東京地裁平成17年9月27日判決は、引き抜き行為を受けた先物取引の受託を行う会社が、引き抜きに伴って減少した顧客からの手数料収入分について賠償を求めたところ、営業を担当する人員数の増減と手数料収入の増減に相関関係が認められないとして賠償を否定しています。)

そのため、仮に引き抜き行為が明確な契約違反に当たる場合でも、元職場から多額の請求に応じるべきかどうかは、損害とされているものの内容を精査する必要があると言えます。

 

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外国人労働者を解雇する場合の特徴について

日本国政府は、少子化等を原因とする労働力不足の対策として、特定技能制度の新設(2018年12月法改正による)をはじめとした外国人材の受入れ拡大に舵を切っています。
また、それ以前2012年から2020年現在に足るまで、外国人労働者の数は増加の一途を辿っており、日本の様々な職場で外国人の方を見かけるようになりました。
派遣会社・人材紹介会社の中には外国人材を中心的に扱うところも出てきています。
そのため、日本人同様、能力不足や問題行為などから、外国人労働者について解雇・雇止めを検討する事業主も増えてきたのではないでしょうか。

本コラムでは、そういった事業主の方のため、外国人労働者の解雇・雇止めについて、日本人労働者と比べてどういった特徴があるかについて解説をいたします。

目次

  1. 外国人でも解雇・雇止めの基準は変わらない
  2. 就労資格がない外国人に対する解雇の可否
  3. 就労資格に制限がある場合の解雇への影響
  4. 終わりに

1.外国人でも解雇・雇止めの基準は変わらない(大前提)

「労務を提供すべき地」(一般的には雇用契約等で定められた勤務地がこれに当たります)が日本である場合、雇用契約等であらかじめ特別な取り決めをしていない限り、解雇・雇止めの争いには日本の法律が適用されます(法の適用に関する通則法12条3項)。
仮に雇用契約等で解雇に関する紛争を日本以外に法律により争うことを合意していたとしても、労働者側が異議を述べた場合、無効になる可能性があります(同法12条1項、2項)

そのため、外国人労働者であっても、日本を勤務地としているのであれば、日本人と同様に、日本の法律が定める基準によって解雇・雇止めの有効・無効が判断されることになります。
すなわち、
・解雇の場合は、①客観的に合理的な理由 と ②解雇が社会通念上相当であること が要求されます(労働契約法16条)。
・有期雇用の更新を申し込まれた場合、a.有期雇用が過去に反復して更新されており、更新をしないことが無期雇用の解雇と同視できる場合 b.有期雇用が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合、更新拒絶について、①客観的に合理的な理由 と ②拒絶が社会通念上相当であることが要求されます(労働契約法19条)。

2.就労資格がない外国人に対する解雇の可否

一般的に、使用者側が就労資格がないことを理由に外国人を解雇することは可能(有効)であるとされています。
就労資格のない外国人であることを認識しながら就労を行わせることは不法就労助長罪に当たるものといえ、使用者側は犯罪に当たることを回避するためにも、当該外国人を解雇する必要があるからです。
この点について、使用者側が不法就労であることを知りながら雇用し、就労させた場合には、解雇を主張すること信義則上認められないとする見解もあります。

しかし、その見解をとる場合でも、適法に復職できる可能性がないため、復職を求める訴え(労働契約上の地位確認請求)を提起したとしても、訴えの利益がないものとして却下され、結局は復職を実現することはできないとされています。

なお、解雇は雇用契約を終了させる行為であり、過去に遡って雇用がなかったことにさせるものではないため、不法就労であるからといって使用者側が外国人から提供を受けた労働の対価である給料の支払を免れることにはならない点はご注意ください。

3.就労資格に制限がある場合の解雇への影響

就労資格を有する外国人労働者の場合、外国人であることが解雇の可否に直接影響を与えることは考え難く、日本人同様に、解雇について客観的に合理的な理由と解雇を行うことの相当性が要求されます。

もっとも、技能実習のような在留資格に基づいて採用されている外国人労働者の場合、有期雇用で採用されていることが通常です。
そして、有期雇用期間中の解雇は、「やむを得ない事由」が要求され、無期雇用の解雇よりもハードルが高くなっており、解雇が可能となるケースは極めて限定されるものと考えられます。

また、当該外国人労働者が就労系の在留資格に基づいて在留・就労している場合、当該在留資格に係る活動の範囲内の業務でしか就労させることができないため、配置転換が大きく制限されます。
そうすると、例えば他の部署に人員不足があったり、当該外国人労働者が他の部署でより能力を発揮できる余地がある場合でも、在留資格の内容からみて異動後に就かせたい業務を行わせることができない限りは、このような事情は解雇の判断に大きく影響しない可能性があります。

4.終わりに

以上のとおり、労働者が外国人であるからと言って解雇・雇止めの要件が変わることはありませんが、就労内容が制限されるなどの特殊な立場が解雇・雇い止めの可否に影響を与えることがあります。
また、外国人労働者を解雇した場合、当該外国人の在留資格によっては、使用者側が入管に届出を行うなどの特別の義務・配慮が求められることがあります(入管法19条の17)。
使用者がこのような入管法上の義務や労基法を遵守しなかった場合、他の外国人労働者の更新の場面でも不利に斟酌されることがあります。

そのため、外国人労働者を採用される場合、その労務管理について不備がないように、解雇・雇止めをするときも問題とならないように、社労士・弁護士等の専門家に相談して適切に対応することをお勧めいたします。

外国人労働者が解雇された場合、在留資格(ビザ)はどうなるの?(後編)在留資格を踏まえた不当解雇の闘い方

前編のコラムでは、外国人労働者に対する解雇・雇止めが在留資格に与える影響や注意点について説明をいたしましたが、就職活動を行うのではなく元の職場に復職することを求めたい方、就職活動が功を奏さず解雇を争いたい方もいらっしゃいます。
また、懲戒解雇を受け、会社都合退職として扱われない場合は、「特定活動」への在留資格変更は難しいと考えられます。

そこで、後編のコラムでは、解雇の効力を争いたい場合に在留資格との関係で外国人がとりうる手段について、ご説明をいたします。

目次

  1. 在留資格の取得前・在留期限前の解決を目指す
  2. いったん帰国して解決時に再入国する
  3. 労働契約上の地位保全の仮処分
  4. 解雇を争う場合にどのような手段を選択すべきか

1.在留資格の取消前・在留期限前の解決を目指す

まず、在留資格の取消前、在留期限の到来前の解決を目指すことが挙げられます。
労働事件の訴訟は、訴え提起から終了するまでの期間が平均14.5か月(平成30年度の数値)と長期化する傾向にあるため、迅速な解決を目指すのであれば交渉又は労働審判を選択することが考えられます。

もっとも、交渉・労働審判のいずれも、相手方が争う姿勢を崩さない場合は解決に至ることはできません
また、労働審判については、争点が複雑であるなどの場合、裁判所の判断(労働審判)を下すことなく終了してしまい、解決が図れないことがあります(労働審判法24条)。

2.いったん帰国して解決時に再入国する

次に、外国人労働者の方にいったん帰国していただき、弁護士と連絡を取りながら争うというのも方針として考えられます。
労働審判の場合、当事者への事情の聞き取りは第一回目に集中して行われるため、第二回目以降について当該外国人労働者が出頭する必要性は小さくなります。

もっとも、この方法でも、弁護士と対面での打合せができない、尋問のために日本へ渡航する必要があるコストがかかる、永住許可の要件である日本の継続居住が中断してしまう在留資格を取得しなおす必要が生じるといったデメリットがあります。

3.労働契約上の地位保全の仮処分

最後に、訴訟を提起すること前提に、労働契約上の地位保全の仮処分を行うことが考えられます。
労働契約上の地位保全の仮処分とは、解雇により失われた労働者としての地位を、訴訟による解決まで時間がかかる可能性が高い事を考慮し、暫定的に復活させるものです。

この処分が認められるには、被保全権利の存在(解雇・雇止め紛争の場合、雇用関係の存在がこれに当たります)と保全の必要性を疎明(訴訟で必要となる「立証」よりもハードルを下げたもの)が必要とされています。
解雇時に労働者が行うことができる仮処分としては賃金支払いの仮処分もあるところ、賃金支払いの仮処分を申し立てれば労働者としての地位を暫定的に復活させる必要性は小さい(ない)として、保全の必要性が否定されることが通常です。

もっとも、外国人労働者の場合、労働契約上の地位を失うと、上記のとおり在留資格も失ってしまう危険があるため、労働契約上の地位保全の仮処分も認められることがあります(これを認めた裁判例として、東京地裁昭和62年1月26日決定:労判497号138頁があります。)

4.解雇を争う場合どのような手段を選択すべきか

以上のとおり、外国人労働者が解雇を争う場合、どのような手段をとるべきかは、事案の内容(複雑さ、長期化の見通しの有無など)、当該外国人の希望、資力等に応じてケースバイケースであると言えます。
そのため、どの手段をとることが適切かを確認するためにも、弁護士にしっかりと相談をすることをお勧めします。

外国人労働者が解雇された場合、在留資格(ビザ)はどうなるの?(前編)就職活動を行う場合の注意点

日本に適法に滞在している外国人は、基本的に、保有する在留資格にかかる活動をしていることが在留の前提となっています。
そのため、通常、在留資格に係る活動を継続して3か月以上(一部の高度専門職にあっては6か月)行わないで在留している場合、正当な理由がある場合を除き、法務大臣は在留資格を取り消すことができるものとされています(入管法22条の416号)。

また、在留期間の更新を行う場面では、在留資格該当性(本邦に滞在して予定する活動が当該在留資格に係る活動に該当するものであること)が審査されます。
そのため、就労系の在留資格(「技術・人文知識・国際業務」や「技能」などの資格)で在留する外国人労働者が解雇・雇止めを受けた場合、在留資格に係る活動を継続していない、そのような活動をする余地がないとして、在留資格を取り消されたり、在留資格の更新が認められないといった不利益を受けてしまうのではないかということが懸念されます。

本コラムでは、そういった懸念に答え、解雇・雇止めをされた場合に在留資格はどうなるのか?就職活動を行うことはできるのか?と言った点について解説をいたします。

目次

  1. 会社都合退職の場合、就労意思があれば在留の継続はある程度可能
  2. 就職活動を行う場合の注意点
  3. 終わりに

1.会社都合退職の場合、就労意思があれば在留の継続はある程度可能

入管は、このような外国人労働者に関し、「雇用先の倒産・業務縮小等により、自己の都合によらない理由で解雇、雇止め又は待機を通知された場合」、以下のとおりの取り扱うことを定めています(令和3719日時点)

  • 本邦で就職活動中の者については、現に有する在留資格のまま、在留期限までの在留を認める
  • 在留期限の到来後も就職活動を継続する目的で在留を希望する場合は、期限到来前まで就職活動を行っていることが確認され、在留状況に問題ない等許可することが相当であるときは、「特定活動」の在留資格が許可される
  • 当該「特定活動」への在留資格については、在留期間の更新は認めない

すなわち、このような外国人については、就職活動を継続する場合には、在留期限までの在留を認める(取消は受けない)ものの、更新は認められず、特定活動の資格に変更したうえで数か月程度の猶予が与えられるという運用が採用されています。

2.就職活動を行う場合の注意点

就労制限がある外国人労働者は、上記2で述べた運用に従って就職活動を行う場合には次に述べるポイントに注意が必要です。

(1) 退職・採用時それぞれで入管への届出が必要

退職した場合、及び新たに雇用契約を締結する場合、当該事由発生時から14日以内にその旨の届出を行う必要があります(入管法19条の16)。
なお、保有する在留資格が高度専門職1号である場合、勤務先を変更するにあたっては留資格の変更許可申請が必要になりますのでご注意ください。

(2) 不法就労にならないように注意

外国人を採用する会社が必ずしも在留資格のことを理解しているとは限りません。
そのため、採用後に命じる業務として、現在の在留資格では資格外就労に当たるものを予定することがありえます。
資格外活動を行った場合、会社の命令であっても外国人労働者が刑事処罰される可能性があり、更新の場面でも不利に斟酌されてしまいます

(3) 就職活動中のアルバイトについて

就職活動中、生活費を捻出するためにアルバイトをしたいと考える方もいらっしゃると思います。
この場合、資格外活動許可を得ることにより1週について28時間以内であれば、当該在留資格に係る活動に該当しない仕事に就くことができます。

ただし、ここにいう28時間とは、当該外国人が行う仕事全体で28時間以内である必要があるため、例えばアルバイトを掛け持ちする場合などでは、アルバイト一つ当たり28時間以内であればよいとはならないことにご注意ください。

3.終わりに

もっとも、就職活動を行うのではなく元の職場に復職することを求めたい方、就職活動が功を奏さず解雇を争いたい方もいらっしゃいます。
また、懲戒解雇を受け、会社都合退職として扱われない場合、上記2で述べたような取扱いの対象外になってしまいます。

そこで、次回は、外国人労働者が解雇の効力を争いたい場合に在留資格との関係でとりうる手段について、ご説明をいたします。

 

コロナの経営悪化で整理解雇は仕方ない…と必ずなるわけではない。労使それぞれの注意点を解説

報道によれば、2020年は、新型コロナウイルスの流行によって解雇や完全失業者が増加し、この傾向は同年末時点でも継続しているものとされています。

使用者は会社の経営が悪化するなどして人員削減の必要性がある場合には、整理解雇によって労働者との雇用関係を解消することができ、コロナによる経営不安も整理解雇の理由にはなりえます。

もっとも、整理解雇もこのような人員削減の必要性がありさえすれば無制限に認められるものではなく、またコロナによる経営不安を理由とした整理解雇の中には、人員削減の必要性があること自体疑わしい事案も仄聞されます。

そこで、本コラムでは、コロナによる経営悪化が整理解雇のどういった要素に影響を与えるかをご説明したうえで、労働者・使用者がそれぞれが注意すべきポイントを解説いたします

目次

  1. 整理解雇の基礎知識(有効・無効を分ける要素とは)
  2. コロナウイルスの流行を理由とした整理解雇のポイント
  3. 有期雇用契約に特有のポイント
  4. 労働者・使用者の対応それぞれの注意点

1 整理解雇の基礎知識(有効・無効を分ける要素とは)

整理解雇の有効性について、裁判所は、
  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力の有無・程度(一例として、新規採用の停止や希望退職者募集等)
  3. 人選の合理性
  4. 解雇手続(労働者に説明・協議を尽くしたか)の相当性
という4要素(4要件と呼称することもあります)を考慮し、解雇権の濫用に当たらないかという観点から審査を行っており、この4つの要素の立証は基本的に使用者側が行うべきものとされています。

そして、整理解雇は通常の解雇(普通解雇)と異なって基本的に労働者側に非がないにもかかわらず、労働者に対して雇用関係の解消と言う不利益を課すものであることから、その審査は普通解雇よりもは厳しく行われる傾向にあります

このような整理解雇に関する規制は、その理由がコロナウイルスの流行という未曽有の事態を原因とする場合でも異なるものではなく、人員削減の必要性が肯定される職場が多いとは考えられるものの、他の要素の検討や、4要素の存在を裏付ける証拠の存在は有効性(不当解雇であるか否か)を左右するものといえます。

2 コロナウイルスの流行を理由とした整理解雇のポイント

(1) 助成金の受給と解雇回避の努力の関係

厚生労働省は、新型コロナウイルスの流行を受けて、雇用調整助成金について助成額、助成率を引き上げるなどの特例措置を設けています。
また、このような国の支援策とは別に、各事業者について独自の支援策を実施ている地方自治体もあるようです。

使用者側が解雇を回避する努力を講じたかは整理解雇の有効性を分ける重要な要素(4要素の2つ目)とされていますが、こういった支援制度が存在する場合には、これらの支援制度を利用してもなお解雇が必要とされる場合でないと、整理解雇の有効性が否定される可能性が高まるものと言えます。

とくに、雇用調整助成金については、従業員の雇用維持を目的として構築された制度であるため、整理解雇前に利用が検討されるべきものと考えられます。

現に、新型コロナウイルスの影響による業績悪化を理由にタクシー会社が行った整理解雇が争われた仮処分申立てに関し、雇用調整助成金が利用されていないことを理由の一つとして整理解雇を無効とした決定が下されたとの報道もあります。

したがって、事業者としては、整理解雇前にこのような行政の支援策の利用検討しておくことが肝要です。

(2) コロナであるからといって説明不足が許されるわけではない

コロナ関連の解雇の中には、使用者側がなんらの説明なく解雇を通告されたという話を耳にします。

しかし、整理解雇を行う場合、使用者側が労働者側に説明を尽くしたかどうかも重要な要素とされています。

仮に新型コロナウイルスの流行による業績悪化や解雇された従業員の担当業務の喪失が真実であったとしても、十分な説明もなくに整理解雇を行った場合は整理解雇が無効とされる可能性が高まるものと考えられます。

また、このような唐突な整理解雇は、場合によっては、使用者側が解雇を回避するための措置や誰を解雇するのかといった点について十分な検討をしていないのではないかという疑いを抱かせるものでもあり、他の要素の観点からも、整理解雇の有効性を否定する事情になりうるものと考えられます。

3 有期雇用の労働者特有のポイント

整理解雇が行われる場合、有期雇用の労働者は無期雇用の方に比べて解雇の対象にされやすい傾向にあります。

確かに、有期雇用は無期雇用に比べて雇用関係を解消されやすい立場にあることは事実ですが、場合によっては無期雇用よりも雇用関係を解消するハードルが上がったり、無期雇用と同様の保護を受けることが可能になります。

(1) 契約期間中の解雇、無期雇用の解雇よりも認められにくい

労働契約法上、有期雇用労働者の契約期間途中の解雇は、「やむを得ない事由がある場合」でないと認められないとの規制が設けられています(労働契約法17条1項)。

この規制は整理解雇にも適用され、要求される解雇理由の水準は無期雇用の解雇よりも高いものとされており、契約期間中の整理解雇は無期雇用の解雇よりもいっそう認められにくいものといえます。

(2) 契約期間が通算5年以上の労働者は無期雇用に転換を求めることが可能

同一使用者間の二つの雇用契約の通算契約期間が5年を超える場合、有期雇用労働者は雇用契約を無期雇用へ転換する権利を取得します(労働契約法18条1項)。

この無期転換権は、経営不安等を理由に退職を迫られている場合や、雇止めを予告された場合であっても、雇用契約の終了前であれば行使することができます。

そして、労働者が無期転換権を行使した場合、使用者は雇用契約を解消するには雇止めではなくて解雇を行う必要がありますが、有期雇用の雇止めよりも無期雇用の解雇の方が厳しく判断されるため、労働者としては雇用関係の解消を防ぎやすくなります。

そのため、雇止めを予告された労働者が無期転換権が取得している場合、雇用契約終了前に無期転換権を行使して、リストラ目的の雇止めに対抗することが考えられます。

4 労働者・使用者の対応それぞれの注意点

(1) 労働者側の注意点

労働者側には、解雇を宣告されたり、退職を勧奨された場合に、速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。

ごく稀に、再就職がうまくいかなかったなどとして解雇(退職)から時間が若干経過してから、解雇を争うことができないかを弁護士に相談される方がいらっしゃいます。
しかし、解雇を受けてから争う意思を表明するまで間が長く空いてしまった場合、解雇を承認した、就労意思を失ったなどとして裁判所が解雇無効の主張を制限する可能性が生じるうえ、解雇を争ううえで役に立つ証拠(会社とのやり取りに関する書類やメールなど)が散逸してしまうこともあり得ますので、弁護士への相談は、退職を迫られたり、解雇・雇止めを予告された時からできる限り間を置かずにされた方が安全です。

また、実態は会社による整理解雇であるものの、会社側が補助金支給に影響を与えないようにするため、労働者側に退職届を書かせて提出するよう強要することがあり、労働者としても断ることができずに退職届を提出してしまうことがあります。
このような場合であっても、当時の状況によっては退職届の提出は無効であるなどとして争える可能性があるため、このような事情がある場合には特に弁護士に相談して、対応を検討された方が良いでしょう。

(2) 使用者側の注意点

上記のとおり、整理解雇は要件が厳しいところもあるため、まずは労働者に説明を尽くし、また退職金を支給するなどして、合意退職の途を探ることがリスクを避けるうえで無難と考えられます。

仮に整理解雇を行う場合は、雇用調整助成金を含めて、公的な支援制度をできる限り利用して、解雇を避ける努力を講じることが重要です。

また、経営不安(人員削減の必要性)や解雇回避措置を講じている場合であっても、整理解雇を拙速に行ってしまうことで解雇の有効性が否定されることもありうるので説明を尽くす必要があります。
このような説明や解雇回避措置の塩梅については個別具体的な検討が必要であるため、整理解雇を検討されている場合、特に複数名の労働者について検討されている場合には、事前に弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

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痴漢でも解雇することはできない/されないのか? 痴漢を理由とした解雇の裁判例について解説

性犯罪に関する裁判の行方や性犯罪の前科を持つ者に対する扱い関するニュースが話題になることが多くなっています。
その話題の中で東京メトロ社員の諭旨解雇が無効と判断された2015年の判決(平成27年12月25日 労働判例1133号5頁に掲載)に関するニュースが言及され、この判決をもって日本では痴漢をしても解雇されないとのコメントをされている方もいました。
もっとも、そのニュース記事の記載は少なく、このニュースをもって痴漢をしても解雇されないとの評価を下してよいのか不明なところがあります。
そこで、本コラムでは、この判決について、他の痴漢を理由とする解雇の有効性が争われた裁判例も紹介しながら分析、痴漢を理由とした解雇の可否・留意すべき点についてご説明をいたします

目次

  1. 前提:懲戒処分は前もって懲戒事由と懲戒手段を定めなければならない
  2. 東京メトロ事件判決の概要
  3. 「痴漢では解雇できない」と一般化することはできない
  4. まとめ(使用者・労働者が注意すべき点)

1 前提:懲戒処分は前もって懲戒事由と懲戒手段を定めなければならない

本件で効力が争われた諭旨解雇や懲戒解雇は懲戒処分の一つとして位置づけられるものです。
懲戒処分は、契約関係における特別の根拠によって(就業規則で定める場合が一般的ですが、雇用契約や雇用契約で定めることも可能とされています)、あらかじめ懲戒事由と懲戒の手段を定めておく必要があるものとされています。
そのため、懲戒処分についてなにも定めていなかった場合、又は処分事由に痴漢に該当するようなものを定めていなかった場合には、たとえそれが犯罪行為に該当するものであっても、懲戒処分を行うことは認められないものとされています。
もっとも、「痴漢を行ったこと」とか、「痴漢行為により処罰されたこと」といったふうに具体的に定めることまでは求められません。
多くの企業では、就業規則に「会社の名誉・信用を毀損したとき」だとか、「法令に違反する行為を行ったとき」といった懲戒事由を定めていますが、このような定めがあれば、痴漢を理由に懲戒処分を行うことは可能であると考えられます。

2 東京メトロ事件判決の概要

(1) 事件の概要

本件で解雇を争った原告は、東京メトロの入社約7年目(解雇当時)の正社員でした。
この社員は、電車内において痴漢行為を及んだものとして、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる「迷惑防止条例」)違反の嫌疑で逮捕され、罰金20万円の略式命令を受け、その判決は確定していました。
そして、会社側は、同社が「痴漢行為の防止について積極的に取り組んでいる中で,鉄道会社の社員が犯した悪質かつ破廉恥な行為であり,被告(※執筆者注:会社)及び被告の社員に対する社会的信用を失墜させ,被告の名誉を著しく損ない,被告の社員としての体面を汚すものであること」を理由をに、この社員を就業規則に定められた諭旨解雇の処分を下しました。

(2) 裁判の展開

裁判において、社員は、痴漢行為は行っていない、罪を自白し、処罰を受け入れたのは早く釈放してもらいたい、裁判で争って無罪となるのは難しいと考えたからであるとの供述をしていたようですが、この無実であるとの供述について裁判所は採用せず、懲戒事由の存在自体はあるものと認めました。
しかしながら、以下の点を考慮して、裁判所は諭旨解雇は相当性を欠き、無効なものであると判断しました
  1. 痴漢の内容や20万円といった処罰内容等を踏まえると、痴漢として処罰対象となる行為としては、「悪質性の比較的低い行為である」こと
  2. 使用者が痴漢行為撲滅を積極的に取り組む鉄道会社であったものの、マスコミの報道等はなく、会社の「企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は大きなものではなかった」
  3. 社員が示談の成立を試みたものの、不調に終わったこと
  4. その他の社員の勤務態度に問題はないこと
  5. 当時の会社が、懲戒処分(諭旨解雇)を決定するに際して、痴漢行為を理由に起訴されたかどうかだけを基準としており、社員に弁明の機会が与えず、具体的な事案の検討もしなかったこと

3 「痴漢では解雇できない」と一般化することはできない

確かに、この判決が解雇を無効にしたことは事実です。
しかし、この判決には次に述べるような特徴があり、少なくともこの判決の存在から痴漢をした労働者を解雇することはできないとの一般論を導くことは難しいと考えられます

(1) 普通解雇であれば有効になる余地はある

まず、本件で無効と判断されたのは懲戒処分の一種である諭旨解雇であるという点には留意が必要です。
この場合における諭旨解雇も普通解雇も、合理的理由と解雇を選択することの相当性が必要であることに変わりはありませんが、諭旨解雇の方が普通解雇よりも重大な措置であるため、相当性が認められる(解雇が有効になる)ハードルは高くなるものと考えられます。
したがって、この裁判は、あくまで諭旨解雇の効力を否定した裁判例であり、普通解雇も同様に考えることはできないといえます。

(2) 会社の解雇手続における不備の存在

本件では、会社側の懲戒手続に不備があった点も、留意する必要があります。
すなわち判決では、懲戒処分を決定する手続について、相応の分量をもって検討し、弁明の機会が付与されたとは言えないものと認めて、懲戒手続の相当性に「看過し難い嫌疑が残る」ものと評価しています。
そもそも、痴漢事案に限らず、懲戒処分は、手続的な相当性を欠く場合、些細な手続上の瑕疵でない限り懲戒権の濫用として無効になるものとされています。
そして、一般的に、労働者に対する弁明の機会を付与することは、懲戒手続において重要なものと扱われる傾向にあり、少なくとも些細な手続上の瑕疵とは認められ難いと考えられます。。
手続不備に関する本判決の言及の仕方も踏まえれば、本件における手続の不備は、本判決の結論に大きな影響を与えている可能性があります。
実際、本事件に近接する時期に下された 痴漢行為に及んだ日本銀行の職員に対する諭旨免職処分が争われた裁判では、諭旨免職が有効とされています(東京地裁平成21年1月27日判決)。
この事案は、本件より若干重い処罰がされている点(罰金30万円の略式命令)、新聞報道がされているという点などに違いはありますが、懲戒手続自体は問題なかったものと認定されており、本件と比較して、手続の相当性が結論を左右した可能性があります。

(3) 痴漢の悪質性にも差異がある

そもそも、労働者は使用者から常時支配(指揮監督)を受ける立場ではないため、私生活上の行為(業務とは関連のない行為)を理由とする懲戒処分は、業務中の行為を理由とする場合に比して慎重な制限が課される傾向にあり、犯罪に該当する行為にも同様の傾向があります。
そのため、業務と関連のない犯罪行為を理由に懲戒処分を行う場合は、それがどのような行為であるかという点は、会社側が当然に把握できない事情であることもあって、慎重に確認すべきものと言えます。
そして、痴漢自体が重大な犯罪であることは当然ですが、痴漢の中でも悪質性が「比較的」低いもの・高いものがあるのは事実です。
そのため、悪質性が比較的低いと見られる事案であれば解雇の有効性は厳格に判断されることになります。
本件以前、小田急電鉄の社員が痴漢行為に及んだことを理由に懲戒解雇され、これが有効とされた高裁判決がありました(東京高裁平成15年12月11日判例時報1853号145頁掲載)が、この事案では、問題とされた痴漢行為の前にも同種の痴漢行為に及んでいたこと、(同種前科の存在が考慮されたと考えられますが)問題とされた痴漢行為に対する判決が執行猶予付きの懲役刑というものであったことから、懲戒解雇が相当性を欠くという評価はされませんでした。
もっとも、前に述べた日銀の事案で諭旨免職が有効とされたことに鑑みると、痴漢で刑事処罰がされたケースでは、弁明の機会を付与するなどして手続を尽くしていれば、普通解雇や諭旨解雇が無効となるケースは相当限定されるのではないかと考えられます。

(4) 2014年の事件であること

本件は2014年の解雇が問題となった事案となることにも留意が必要です。
本件当時の東京都の条例では、痴漢行為は6月以下の懲役または50万円以下の罰金とされており、現在(令和3年1月時点)も法定刑に変化はありませんが、神奈川県など一部の自治体ではこれよりも法定刑が重くなるよう改正がされており、東京都でも今後同様の改正が行われる可能性があります
また、このような厳罰化の傾向は、痴漢に対する社会的な非難の程度が年々高まっていることの証左ともいえ、この傾向自体が解雇の有効性を積極づける事情とされる可能性があります。

4 まとめ

以上での検討を踏まえて、労使それぞれは以下の点に気をつけるべきと考えられます。

(1) 使用者側が気を付けるべき点

まず、逮捕や起訴は痴漢を犯したことを意味するものではなく、この事実のみから労働者が痴漢行為を認定することはリスクがあります。
また、痴漢の態様や検挙後の被害賠償等の被害者への対応状況は、労働者以外から情報を得ることは困難です。
そのため、普通解雇をするにせよ、懲戒解雇をするにせよ、社員から事情を聴取し、弁明の機会を付与することは必須であると考えられます。
ヒアリングのみでは労働者側が嘘をつく可能性もあるため、裏付け資料の提出を。不起訴処分であれば、被疑者が請求すれば検察庁は不起訴処分告知書(発行するため、これを提出するよう求めることが考えられます。
また、起訴をされ、判決が下されたのであれば、判決書の謄本を提出することが考えられます(ただし、被害者側のプライバシー配慮の観点から、被害者の氏名等の情報をあらかじめマスキングして渡すように求めた方がよいでしょう)。

(2) 労働者側で考えるべき点

痴漢を犯さないことが第一であることは言うまでもありません。
仮に犯行に及んでしまった場合、被害者への謝罪・賠償状況等も解雇の有効性や判断する際に考慮されるため、被害弁償を行うなどの適切な対応を取ることが重要と考えられます。
もっとも、逮捕直後は気が動転するなどして冷静な判断を下せないものと考えられ、濡れ衣であっても、解雇の回避や釈放のために自白をする方もいらっしゃると思われますが、自白をしてしまった場合に嫌疑不十分による不起訴や無罪を得ることはより難しくなります。
また、自白を覆せる見通しというのも、専門家でなければ分からないところがあります。
そのため、逮捕された場合には、速やかに当番弁護制度や家族の協力によって弁護士に相談し、依頼の機会を確保し、その助言を得て、今後の対応を検討することが肝心です。
なお、不起訴処分告知書や判決処謄本を偽造・変造し、提出することは、会社への義務違反に当たるだけではなく、公文書偽造・変造、行使という犯罪に該当するものでもあるため、決して行わないようにしてください。
【労働者側:労働問題】
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【使用者側:労働問題】
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【刑事事件】
刑事事件(痴漢含む)に関するご相談はこちらもご参考ください
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雇止めをされてしまった…更新がゼロ/1回では、雇止めは争えないのか?

近頃は雇用にも色々な形が増え、非正規、有期雇用の労働者の方も年々増えています。そのような有期雇用労働者の中には更新を1回しか受けられなかったり、更新が1回もされないまま契約を切られて(雇止めを受けて)しまう方がいらっしゃいます。

このような場合、雇止めが無効であると争うことはできないのでしょうか。
今回のコラムでは、労働者の立場にたって、更新がされたことがない又は更新が数回程度しかない有期雇用労働者の雇止めについて、どのような場合に争うことができるのかを雇止め規制の仕組みとともに解説します。

目次

1.労働契約法19条による規制

2.更新を期待する合理的理由の判断材料

3.更新がゼロ・1回でも合理的期待が認められたケース

4.雇止めの目的が専ら法律上許されないものである場合、労働者は争える余地がある

5.実態が試用期間である場合も争える余地がある

6.おわりに

 

1.労働契約法19条による規制 

雇止めから労働者を守る(使用者の雇止めを規制する)最も一般的な法規制としては労働契約法19条が挙げられます。

この法律は、次の2つのいずれかに該当する有期雇用について、客観的に合理的な理由がない限り、使用者が雇止めすることを禁じています。
(1)過去に反復して更新されたことがあり、雇止めが無期雇用の解雇と社会通念上同視できる場合(19条1号)
(2)契約期間満了時に更新がされるものと期待することについて合理的な理由がある場合(19条2号)

更新が1回以下の雇用では、(1)場合における「反復して更新された」という要件を満たすことは基本的にありません。
そのため、(2)の場合、すなわち、更新がされるものと期待することへの合理的理由が認められるかが、雇止めを争えるかの鍵となります。

 

2.更新の期待への合理的理由の判断材料 

更新を期待する合理的理由の有無は、最高裁平成3年6月18日第三小法廷判決(進学ゼミナール予備校事件、労判590号6頁掲載)を始めとした過去の裁判例に照らすと、以下に述べるような事情から判断される傾向にあります。

・雇用の臨時性・常用性
・更新の回数
・雇用の通算期間、
・契約期間の管理状況
・雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無
など

このような傾向を見ると、過去更新されたことがあるかは期待の有無を判断する上で重要な事情であることは間違いなく、特に更新がされていないケースの場合は労働者が雇止めを争うことは基本的に難しいものであると言えます。

 

3.更新ゼロ・1回でも期待に合理的理由があるとされたケース 

しかし、労働者にとって争うのが難しいと言っても、以下に紹介するような、更新が1回以下の有期雇用労働者の更新が認められたケースもあります。

(1)更新がゼロ回でも雇止めを違法としたケース(2014年の裁判例)

更新が1回もされたことがないにもかかわらず、労働契約法19条2号の適用を認めた事案としては、福岡高裁平成26年12月12日判決(労判1122号75頁掲載)があります。
この事案は、1年の期間を定められた短大講師に対する初回の更新拒絶が問題となったもので、2年間を通してキャリア教育を実施するキャリア支援科目を新設するなどして、「複数年にわたる一貫した学生の教育が予定され」ており、新規採用教員について1年で契約が終了するとなると、学校運営に重大な支障が生じるとみられること、採用面接時にも更新の限度とされている3年間は、契約は原則として更新されるような説明がされていたこと等を考慮し、更新拒絶を違法なものと判断しています。
この事案は、原告である講師が担当する業務(講義)の特徴に着目して雇止めが否定されたものと考えられ、雇止め効力を争う際には、予定されていた業務の性質(特徴)を具体的に検討することが特に重要であることを示しているものと言えます。

(2)更新1回で雇止めを違法とした事例(2020年の裁判例)

最近でいえば、更新が1回(1年ごとの更新)のみであった有期雇用契約について労働契約法19条2号の適用を認めた、東京地裁令和2年5月22日判決(日の丸交通足立事件、労判1228号54頁掲載)の事案もあります。

この事案は、タクシー会社において、定年(67歳)後も嘱託として雇用を継続した運転手従業員について、定年後の運転手を嘱託として雇用する扱いがされていたこと、会社のタクシー運転手のうち70歳以上の運転手は16%に上っていたこと、定年退職後の嘱託雇用では契約書や同意書の作成がされることなく1回の更新がされたこと等の事情を考慮して、更新継続の期待に合理的な理由があるものと判断されました。原告の嘱託雇用条件であれば2回以上の更新が必要となる70歳以上の運転手が会社のタクシー運転手の相当割合を占めていることは、少なくとも70歳までの雇用継続の期待が高いことを裏付ける事情と言えます。
また、定年退職・嘱託による再雇用と更新の手続において契約書類が作成されないことは、更新手続が形骸化し、更新の可否が十分な審査がされることなく更新されていたことを裏付ける事情と位置付けられます。

このように、定年退職後の再雇用の場面では、似たような立場の労働者の方が過去に多くいるものと考えられ、そのような有期雇用の更新が過去どのように運用されてきたかを検討することも、雇止めの効力を争う際には重要であるものと言えます。

 

4.雇止めの目的が専ら法律上許されないものである場合、労働者は争える余地がある 

これ以外にも、雇止めの目的が法律上許されない違法・不当なものである場合には、労働者側は雇止めを争う余地があります。

一例としては、妊娠・出産が挙げられます。男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠や出産等を理由とした女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないものと定めており、この「不利益な取扱い」には雇止めも含まれるものとされています。したがって、専ら妊娠や出産が理由としか考えられない雇止めは(例えば、当該女性社員以外に雇止めされた者がいないといった事情は、このような理由を推測させます)、無効となり、労働者には争う余地があります。

他方、使用者からみれば、妊娠や出産等を行った有期雇用社員の雇止めを行う場合、それが理由であると疑われないよう、雇止め対象となる労働者の選定経緯を十分に検討、記録化し、また説明を行う必要があると考えられます。

 

5.実態が試用期間である場合にも争える余地がある 

よく有期雇用と混同される雇用形態として、試用期間が定められた雇用契約というものがありますが、実は、法律上、有期雇用とは別の性質を持つ契約として扱われています。

試用期間付きの雇用契約は、使用者が試用期間に限って雇用契約の解約権を留保した契約とされています。そして、試用期間は、一般的に、(1)従業員の身元調査の補充を行い適格性を判断するためや、(2)期間中の勤務状態を観察して、適格性を判断するための期間とされており、解約権の行使が認められるのも、その契約における試用期間の目的に沿った調査・観察の結果、適格性を欠くものと認められた場合に限られます。言い換えれば、試用期間が満了したからといって自由に正式採用を拒否(解雇)することは法律上認められておらず、その趣旨に反した正式採用拒否は無効になります。

そして、有期雇用契約の中には、最初の期間の定めが試用期間と同様の目的で定められていることがあります。しかしながら、仮に契約書等で有期雇用であると説明されている場合であっても、 最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(神戸弘陵学園事件、民集44巻4号668頁掲載) によれば、定められた雇用期間の「趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものである」場合は、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意があるなどの特段の事情が認められる場合を除き、試用期間として扱われることになり、先ほど述べたような、試用期間満了時の解約権行使と同じ規制を受けることになります。
そのため、実態が試用期間付きの雇用である有期雇用は、更新が1回もされていない場合であっても、当該契約における試用期間の目的に照らして適格性がないと認められるような場合でない限りは、更新拒否(本採用拒否)をすることができないということになります。

 

6.おわりに 

以上に見たとおり、更新が1回以下の労働者の雇止めであっても、労働者が争う余地(雇止めが無効となる余地)は残されています。
もっとも、更新の合理的期待の有無、試用期間・有期雇用における期間の定めの判別等で判断材料になる会社側の説明は、口頭ベースのものも多く、言った言わないの争いになることが予想されます。
そこで、労働者・使用者ともに、できる限りやり取りを書面化して、あとの争いに備えておく必要があることをおすすめします。

そして、弁護士に相談していただくことで、自己に有利な証拠の作成・収集ができ、また不利な行動を取ることを防ぐこともできます。そのため、争いになる可能性がある場合には、早急に(例えば、労働者であれば雇止を仄めかされてすぐ、使用者であれば雇止めを検討されているタイミング等)弁護士に相談されることをおすすめします。

→解雇・雇止め問題の相談・依頼を検討されている方は、こちらの説明もご参考ください

→解雇・雇止め問題の弁護士費用をお知りになりたい方は、こちらをご覧ください

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