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痴漢でも解雇することはできない/されないのか? 痴漢を理由とした解雇の裁判例について解説

性犯罪に関する裁判の行方や性犯罪の前科を持つ者に対する扱い関するニュースが話題になることが多くなっています。
その話題の中で東京メトロ社員の諭旨解雇が無効と判断された2015年の判決(平成27年12月25日 労働判例1133号5頁に掲載)に関するニュースが言及され、この判決をもって日本では痴漢をしても解雇されないとのコメントをされている方もいました。
もっとも、そのニュース記事の記載は少なく、このニュースをもって痴漢をしても解雇されないとの評価を下してよいのか不明なところがあります。
そこで、本コラムでは、この判決について、他の痴漢を理由とする解雇の有効性が争われた裁判例も紹介しながら分析、痴漢を理由とした解雇の可否・留意すべき点についてご説明をいたします

目次

  1. 前提:懲戒処分は前もって懲戒事由と懲戒手段を定めなければならない
  2. 東京メトロ事件判決の概要
  3. 「痴漢では解雇できない」と一般化することはできない
  4. まとめ(使用者・労働者が注意すべき点)

1 前提:懲戒処分は前もって懲戒事由と懲戒手段を定めなければならない

本件で効力が争われた諭旨解雇や懲戒解雇は懲戒処分の一つとして位置づけられるものです。
懲戒処分は、契約関係における特別の根拠によって(就業規則で定める場合が一般的ですが、雇用契約や雇用契約で定めることも可能とされています)、あらかじめ懲戒事由と懲戒の手段を定めておく必要があるものとされています。
そのため、懲戒処分についてなにも定めていなかった場合、又は処分事由に痴漢に該当するようなものを定めていなかった場合には、たとえそれが犯罪行為に該当するものであっても、懲戒処分を行うことは認められないものとされています。
もっとも、「痴漢を行ったこと」とか、「痴漢行為により処罰されたこと」といったふうに具体的に定めることまでは求められません。
多くの企業では、就業規則に「会社の名誉・信用を毀損したとき」だとか、「法令に違反する行為を行ったとき」といった懲戒事由を定めていますが、このような定めがあれば、痴漢を理由に懲戒処分を行うことは可能であると考えられます。

2 東京メトロ事件判決の概要

(1) 事件の概要

本件で解雇を争った原告は、東京メトロの入社約7年目(解雇当時)の正社員でした。
この社員は、電車内において痴漢行為を及んだものとして、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる「迷惑防止条例」)違反の嫌疑で逮捕され、罰金20万円の略式命令を受け、その判決は確定していました。
そして、会社側は、同社が「痴漢行為の防止について積極的に取り組んでいる中で,鉄道会社の社員が犯した悪質かつ破廉恥な行為であり,被告(※執筆者注:会社)及び被告の社員に対する社会的信用を失墜させ,被告の名誉を著しく損ない,被告の社員としての体面を汚すものであること」を理由をに、この社員を就業規則に定められた諭旨解雇の処分を下しました。

(2) 裁判の展開

裁判において、社員は、痴漢行為は行っていない、罪を自白し、処罰を受け入れたのは早く釈放してもらいたい、裁判で争って無罪となるのは難しいと考えたからであるとの供述をしていたようですが、この無実であるとの供述について裁判所は採用せず、懲戒事由の存在自体はあるものと認めました。
しかしながら、以下の点を考慮して、裁判所は諭旨解雇は相当性を欠き、無効なものであると判断しました
  1. 痴漢の内容や20万円といった処罰内容等を踏まえると、痴漢として処罰対象となる行為としては、「悪質性の比較的低い行為である」こと
  2. 使用者が痴漢行為撲滅を積極的に取り組む鉄道会社であったものの、マスコミの報道等はなく、会社の「企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は大きなものではなかった」
  3. 社員が示談の成立を試みたものの、不調に終わったこと
  4. その他の社員の勤務態度に問題はないこと
  5. 当時の会社が、懲戒処分(諭旨解雇)を決定するに際して、痴漢行為を理由に起訴されたかどうかだけを基準としており、社員に弁明の機会が与えず、具体的な事案の検討もしなかったこと

3 「痴漢では解雇できない」と一般化することはできない

確かに、この判決が解雇を無効にしたことは事実です。
しかし、この判決には次に述べるような特徴があり、少なくともこの判決の存在から痴漢をした労働者を解雇することはできないとの一般論を導くことは難しいと考えられます

(1) 普通解雇であれば有効になる余地はある

まず、本件で無効と判断されたのは懲戒処分の一種である諭旨解雇であるという点には留意が必要です。
この場合における諭旨解雇も普通解雇も、合理的理由と解雇を選択することの相当性が必要であることに変わりはありませんが、諭旨解雇の方が普通解雇よりも重大な措置であるため、相当性が認められる(解雇が有効になる)ハードルは高くなるものと考えられます。
したがって、この裁判は、あくまで諭旨解雇の効力を否定した裁判例であり、普通解雇も同様に考えることはできないといえます。

(2) 会社の解雇手続における不備の存在

本件では、会社側の懲戒手続に不備があった点も、留意する必要があります。
すなわち判決では、懲戒処分を決定する手続について、相応の分量をもって検討し、弁明の機会が付与されたとは言えないものと認めて、懲戒手続の相当性に「看過し難い嫌疑が残る」ものと評価しています。
そもそも、痴漢事案に限らず、懲戒処分は、手続的な相当性を欠く場合、些細な手続上の瑕疵でない限り懲戒権の濫用として無効になるものとされています。
そして、一般的に、労働者に対する弁明の機会を付与することは、懲戒手続において重要なものと扱われる傾向にあり、少なくとも些細な手続上の瑕疵とは認められ難いと考えられます。。
手続不備に関する本判決の言及の仕方も踏まえれば、本件における手続の不備は、本判決の結論に大きな影響を与えている可能性があります。
実際、本事件に近接する時期に下された 痴漢行為に及んだ日本銀行の職員に対する諭旨免職処分が争われた裁判では、諭旨免職が有効とされています(東京地裁平成21年1月27日判決)。
この事案は、本件より若干重い処罰がされている点(罰金30万円の略式命令)、新聞報道がされているという点などに違いはありますが、懲戒手続自体は問題なかったものと認定されており、本件と比較して、手続の相当性が結論を左右した可能性があります。

(3) 痴漢の悪質性にも差異がある

そもそも、労働者は使用者から常時支配(指揮監督)を受ける立場ではないため、私生活上の行為(業務とは関連のない行為)を理由とする懲戒処分は、業務中の行為を理由とする場合に比して慎重な制限が課される傾向にあり、犯罪に該当する行為にも同様の傾向があります。
そのため、業務と関連のない犯罪行為を理由に懲戒処分を行う場合は、それがどのような行為であるかという点は、会社側が当然に把握できない事情であることもあって、慎重に確認すべきものと言えます。
そして、痴漢自体が重大な犯罪であることは当然ですが、痴漢の中でも悪質性が「比較的」低いもの・高いものがあるのは事実です。
そのため、悪質性が比較的低いと見られる事案であれば解雇の有効性は厳格に判断されることになります。
本件以前、小田急電鉄の社員が痴漢行為に及んだことを理由に懲戒解雇され、これが有効とされた高裁判決がありました(東京高裁平成15年12月11日判例時報1853号145頁掲載)が、この事案では、問題とされた痴漢行為の前にも同種の痴漢行為に及んでいたこと、(同種前科の存在が考慮されたと考えられますが)問題とされた痴漢行為に対する判決が執行猶予付きの懲役刑というものであったことから、懲戒解雇が相当性を欠くという評価はされませんでした。
もっとも、前に述べた日銀の事案で諭旨免職が有効とされたことに鑑みると、痴漢で刑事処罰がされたケースでは、弁明の機会を付与するなどして手続を尽くしていれば、普通解雇や諭旨解雇が無効となるケースは相当限定されるのではないかと考えられます。

(4) 2014年の事件であること

本件は2014年の解雇が問題となった事案となることにも留意が必要です。
本件当時の東京都の条例では、痴漢行為は6月以下の懲役または50万円以下の罰金とされており、現在(令和3年1月時点)も法定刑に変化はありませんが、神奈川県など一部の自治体ではこれよりも法定刑が重くなるよう改正がされており、東京都でも今後同様の改正が行われる可能性があります
また、このような厳罰化の傾向は、痴漢に対する社会的な非難の程度が年々高まっていることの証左ともいえ、この傾向自体が解雇の有効性を積極づける事情とされる可能性があります。

4 まとめ

以上での検討を踏まえて、労使それぞれは以下の点に気をつけるべきと考えられます。

(1) 使用者側が気を付けるべき点

まず、逮捕や起訴は痴漢を犯したことを意味するものではなく、この事実のみから労働者が痴漢行為を認定することはリスクがあります。
また、痴漢の態様や検挙後の被害賠償等の被害者への対応状況は、労働者以外から情報を得ることは困難です。
そのため、普通解雇をするにせよ、懲戒解雇をするにせよ、社員から事情を聴取し、弁明の機会を付与することは必須であると考えられます。
ヒアリングのみでは労働者側が嘘をつく可能性もあるため、裏付け資料の提出を。不起訴処分であれば、被疑者が請求すれば検察庁は不起訴処分告知書(発行するため、これを提出するよう求めることが考えられます。
また、起訴をされ、判決が下されたのであれば、判決書の謄本を提出することが考えられます(ただし、被害者側のプライバシー配慮の観点から、被害者の氏名等の情報をあらかじめマスキングして渡すように求めた方がよいでしょう)。

(2) 労働者側で考えるべき点

痴漢を犯さないことが第一であることは言うまでもありません。
仮に犯行に及んでしまった場合、被害者への謝罪・賠償状況等も解雇の有効性や判断する際に考慮されるため、被害弁償を行うなどの適切な対応を取ることが重要と考えられます。
もっとも、逮捕直後は気が動転するなどして冷静な判断を下せないものと考えられ、濡れ衣であっても、解雇の回避や釈放のために自白をする方もいらっしゃると思われますが、自白をしてしまった場合に嫌疑不十分による不起訴や無罪を得ることはより難しくなります。
また、自白を覆せる見通しというのも、専門家でなければ分からないところがあります。
そのため、逮捕された場合には、速やかに当番弁護制度や家族の協力によって弁護士に相談し、依頼の機会を確保し、その助言を得て、今後の対応を検討することが肝心です。
なお、不起訴処分告知書や判決処謄本を偽造・変造し、提出することは、会社への義務違反に当たるだけではなく、公文書偽造・変造、行使という犯罪に該当するものでもあるため、決して行わないようにしてください。
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